片耳にピタッ 無線ヘッドセットの使い勝手は?
最近、耳に装置を付け、歩きながら1人で話す人とよくすれ違う。「ワイヤレスヘッドセット」と呼ぶイヤホンの一種で、両手が自由に使えて便利そうだ。仕事やプライベートでの使い勝手を試した。
ワイヤレスヘッドセットには片耳と両耳の2タイプある。装着していない方の耳で周囲の状況が把握できる片耳タイプが仕事向きと考え、今回の実験に使った。
最初に試したのが電波の届く距離や範囲。電波の到達距離が短いと、スマホを充電しながら通話状態で掃除機をかけたり、プリンターに出力した紙を取りにいったりといった使い方ができないからだ。
大手ブランド、米プラントロニクスの上位機種「VOYAGER 5200」を公園に持ち出し、妻の手元に自分のスマホを置き、通話しながら少しずつ離れてみた。
公園の広場に障害物はなく、土地の起伏はほぼゼロ。目測だが、メーカーがうたう使用半径の30メートル程度までは、まったく音切れはしない。それ以上の距離でも妻の声はしっかり聞こえたが、妻側では途切れ始めていた。自分はよく聞こえても、相手は聞き取りづらいこともある。
次は職場で試した。自宅に電話をかけ、窓際にスマホを置きオフィス内を歩き回った。1つのフロアの長辺は50メートル強で柱はほとんどない。その結果、どんなに離れても音声は途切れなかった。ガラスや壁に囲まれ、電波が拡散しにくいのかもしれない。
意外だったのは、使用半径が10メートルの機種でも、音声が途切れ始める距離がほぼ変わらなかったこと。屋外でも屋内でも距離は気にしなくてよさそうだ。もっとも距離が離れると、スマホをバッグに入れるか高い位置に置くかで音の途切れ方は明らかに違った。
デンマークのブランド「ジャブラ」を販売するGNオーディオジャパンの八島史典マーケティングマネージャーは「人の体も障害物になる。音が切れるときは、ヘッドセットに近い側のポケットにスマホを入れるといい」と話す。
音質や音量はどうだろう。静かな場所から妻に電話をかけたところ「スマホを手にして話すのと区別がつかない」とのこと。長さが5センチ程度の小型機はマイク部分が口元から10センチ近く離れているが、音はきちんと拾っていた。一方、屋外の道路沿いなど雑音が大きい場所では、ヘッドセット側の受話音量が小さく、聞き取りづらいことがあった。
電波の混線などによる音質の変化はあるのか。東京・JR渋谷駅前のスクランブル交差点の端で電話をかけた。
信号が赤の間は、背後にしか人がいないせいか通話できた。ところが交差点の真ん中で人波に飲み込まれると音声はぶつぶつ切れた。ヘッドセットが使う無線規格「ブルートゥース(BT)」にはチャンネルが79あるが、BT機器利用者が多い雑踏では混線を防ぎきれないようだ。
ワイヤレスヘッドセットを使うと両手が空く。得られる自由度は、予想以上に高かった。スマホは肩とあごの間には挟みにくく、長時間通話しながらメモを取るのは難しいが、ヘッドセットを使うと疲労感を大幅に抑えられた。通話しながらスマホで調べ物をするにも便利だった。
無線ならではの強みも発見した。混雑した列車の中で、着信音を消したスマホをバッグの中に入れていた場合。スマホ単体なら着信しても気づきにくいが、ヘッドセットなら音声で知らせてくれる。
便利なワイヤレスヘッドセットだが、長時間の使用で人体への悪影響はないのか。関西医科大学の鈴鹿有子教授に聞いた。「一般的な通話時間、頻度なら難聴の心配はない。音楽を聴き続けるなど長時間の用途なら、音量に気をつけて」と助言してくれた。電池切れは無線機器の宿命だが、耳を休めるいいタイミングくらいに思うとよさそうだ。
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音楽用で急増 両耳タイプ
ワイヤレスで音楽を堪能したい。そんなニーズに応えるのが両耳タイプだ。日本プラントロニクス(東京・千代田)の荒川啓マーケティング部長は「音楽鑑賞など通話以外の用途が今後普及を後押しする」とみる。アップルの「iPhone(アイフォーン)7」がイヤホンジャックを廃止したこともあり、両耳で聞く音楽用ワイヤレスイヤホンの販売が急増している。
イヤホン専門店を展開するタイムマシン(大阪市)の松田信行広報戦略室長によると「iPhone7の発売後、ワイヤレス製品の売り上げはそれ以前の3~4倍に増えた」。多くの機種は通話もできる。ハンズフリー電話の便利さに気づく人が増えるかもしれない。
(小山隆史)
[NIKKEIプラス1 2017年6月24日付]
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