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生前整理・孤独死保険… おひとり様も「終活」で安心 50~60代も、元気なうちから将来に備え

2017/6/17付 日本経済新聞 夕刊

不用品の搬出作業を見守る津々木多恵子さん(左)(千葉県白井市)

 自分らしく人生を終えるために元気なうちから備えたい――。そんな「終活」の裾野が広がってきた。墓や葬儀について考えるだけでなく、身の回りの物を「断捨離」する生前整理を始めたり、入院などの際の身元保証を第三者に頼んだりするおひとり様が増えている。人に迷惑をかけずに人生の最期を迎えたいという思いが垣間見える。

 「あら、懐かしい。お父さんの還暦の写真だわ。こっちは孫からの手紙ね」。目を細めるのは千葉県白井市に住む津々木多恵子さん(78)。傍らではそろいのポロシャツを着たスタッフが所狭しと動き回る。ある者は履物を箱に詰め、別の者は台所から戸棚を運び出す。

 津々木さんは夫を1年半前に亡くした。築38年の家には夫婦と独立した息子たちの荷物が残った。「このままじゃいけないと思っていた」。息子たちの勧めもあり生前整理を決心した。

 請け負ったのは遺品・生前整理を手掛けるリリーフ(兵庫県西宮市)。津々木さんが見守る中、朝9時に始まった作業は午後3時に終了した。処分品は2トントラックで5台分。費用は約36万円だった。

 リリーフが手掛ける片付けの件数は年間1500件。亡くなった親の遺品整理を子どもが頼むケースが多いが、「最近は高齢のおひとり様の生前整理が目立ってきた」と赤沢知宣おかたづけ事業部長は話す。「放置したまま死ぬと家族に迷惑がかかる」という動機の依頼者も少なくないという。

■単身高齢者増える

 かつて主流だった三世代同居が減る一方、増加したのはひとり暮らしだ。2015年には65歳以上の男性の13%、女性の22%を占めた。「いざという時に頼れる家族がいない」。おひとり様向けサービスが広がる背景にはこのような事情がある。

 NPO法人きずなの会(名古屋市)は家族に代わって病気やケガをしたときの支援や葬送を代行する「生前契約」の老舗だ。中部・関東の14カ所に事務所を構え、契約者は累計で1万人近くに上る。

 病院や施設・賃貸住宅への入居時の身元保証を軸に、手続きを代行したり付き添ったり、必要な物品を届けたりする様々な支援をワンストップで実行する。契約者が亡くなれば葬儀や納骨もする。身元保証だけでなく付き添いなどの生活支援や葬送も頼むなら、契約時に190万円の預託金が必要だ。預託金は弁護士法人が管理する。

 今年契約をした都内在住の70代の女性は「息子は遠方に住んでいて、緊急時に頼れない。入院や手術の際に職員に立ち会ってもらい助かった」と話す。杉浦秀子・東京事務所長によると「将来に備えたいと50~60代の契約も増えている」という。

■家主の損失カバー

 新しい金融商品も出てきた。その名も「孤独死保険」。賃貸住宅の入居者が部屋で亡くなると、その後なかなか借り手が見つからなかったり、原状回復や遺品整理に多額の費用がかかったりすることがある。孤独死保険はこれらの家主の損失をカバーする。

 ジック少額短期保険(千葉県東金市)が販売する「生活安心総合保険」は「孤立死原状回復費用」の特約を付加できる。入居者が加入するこのような保険は現在20社以上の少短保険が扱う。家主が加入するものもあり、東京海上日動火災保険などが販売する。

 国土交通省の調査では、賃貸住宅の家主の約6割が「高齢者の入居に拒否感がある」という。生前契約や保険が広がれば、おひとり様の安心老後を後押ししそうだ。

■「デジタル遺品」にも目配り

 「あなたはパソコンやスマホを残して死ねますか?」――。先月26日に開かれた「デジタル終活セミナー」。講師の伊勢田篤史弁護士が問いかけると、参加者全員が首を横に振った。

 デジタル終活とはパソコンやスマートフォン(スマホ)、オンライン上に保存した写真やメール、データなどの「デジタル遺品」について、自分の死後の取り扱いを考える活動だ。スマホなどは画面にロックを掛けている人が大半だし、その中身は極めて「個人的なもの」だ。

 「家族には見せたくない写真がパソコンに入っている」という理由でセミナーに参加した会社員の女性(41)は、「データを隠すだけでなく、毎月利用料金を支払っているネットの有料サービスなどを引き継いでおかないと死後、無駄に料金を払い続けてしまうことに気づいた」と話す。

 伊勢田弁護士は「家族が困ったり悲しい思いをしたりしないよう、まず、残すものとそうでないものを分類する“棚卸し”をし、それぞれに適切な対策をしてほしい」と呼びかけている。

(土井誠司)

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