科学漫画、アジア発に夢中 エンタメ重視でヒット
学習漫画王国の日本で、アジアの作家が手がけた科学漫画が勢力を伸ばしている。勉強の要素が強い国内作品と異なり、エンターテインメント性にこだわるつくりが支持されたようだ。
書店チェーンの有隣堂で、児童書の品ぞろえに力を入れる、たまプラーザテラス店(横浜市)。主力の売れ筋は学習漫画で歴史ものが圧倒的に購入されていたが、近年は勢力図に変化が見られる。同ジャンルの売り上げの半分に迫るのが、自然科学漫画だ。
高樋純子店長は「人気をけん引するシリーズがある」と「科学漫画サバイバルシリーズ」「どっちが強い!?」を挙げた。日本の作品ではない。それぞれ韓国とマレーシアの作家が描き、両国でヒットした本の翻訳版だ。「新刊が出ればすぐに200冊が売れるほど、子供が夢中になっている」
「サバイバル」の発売は2008年。「人体」「昆虫世界」など様々なテーマの59巻を出し、累計発行部数は630万部に達する。版元の朝日新聞出版にとって屈指のヒット作だ。韓国の教育系出版社から日本での出版の相談を受けて刊行を開始。当初は先行きを楽観する雰囲気はなく、須田剛書籍本部長は「恐る恐るだった」と振り返る。
解説は別ページ
というのも、既存の学習漫画と作風が異なっていたからだ。日本の作品は物語が知識の説明調だったり、文章で解説するコマが挟んであったりと学びの要素が強い。一方、「サバイバル」は「勉強より漫画の面白さ重視。エンタメを前面に出すという点で対極にあった」(須田本部長)。
例えば、今年3~5月に出た最新作の「微生物のサバイバル1.2」では、少年たちが小さくなるマシンに乗りミクロの世界を探検する。微生物に襲われる危機を力を合わせて乗り越える冒険漫画に仕上がっている。関連知識の解説もあるが、章が変わるところで独立したページとして差し込み、物語を妨げないよう工夫している。
「『勉強させられている感』がない目新しさ」(同)が小学生に支持された。楽しみつつ知識も自然と身につくと口コミで評判が広がり、12年には100万部を突破。その後も毎年100万部ずつ部数を伸ばす。
昨年11月創刊の「どっちが強い!?」(KADOKAWA)もエンタメ重視の方向性は同じだ。少年少女の調査隊が世界に飛んで動物を調べ、危機に協力して立ち向かう。ライオン対トラなど強い生物が対決するという子供の興味をくすぐる場面が多いのが特徴だ。
ドラえもん手本
作者は、マレーシア人の複数チーム。ストーリー・絵コンテ担当のスライウム氏と作画のレッドコード氏は、幼い頃「ドラえもん」など日本の漫画を愛読し「楽しみながら知識や経験を得た」。それを手本に制作したという。
子供が親しめるポップな絵柄を練り、分かりやすくて魅力的な物語になるように推敲を重ねる。速いテンポでギャグを入れて飽きさせないようにし、子供が夢中になって読めるように徹底してつくり込んだ。娯楽漫画としての完成度を高めながら、動物の生態を解説する欄を場面の転換部分に挿入して自然と学べるようにした。小学低学年を中心に人気を集め、これまでの5巻で30万部を超えるヒットとなった。
学習漫画に詳しい京都精華大国際マンガ研究センターの伊藤遊研究員は「日本の出版界にとって黒船のような衝撃だ」と指摘する。国内で学びの要素が強い漫画が制作されているのは誕生の事情に由来。伊藤氏によると、戦時中に漫画が規制されそうになったとき、教育にも役立つことを示すため、堅めの学習漫画が発案され、その流れを戦後も引き継いできたという。
歴史漫画でも、はやりの絵を描く漫画家が採用されるなど「『黒船』の影響は明らかだ」と伊藤氏。娯楽の要素を採り入れた学習漫画は今後も増えそうだ。
(文化部 諸岡良宣)
[日本経済新聞夕刊2017年6月6日付]
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