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こども保険は幼稚園や保育所など就学前児童に重点的に配分する

こども保険は幼稚園や保育所など就学前児童に重点的に配分する

小中学校の義務教育以外にも教育の無償化の範囲を広げようという議論が活発になっているわ。なぜ広げようとしているの。「こども保険」などのいくつか案が出ているけど、どんな中身なのかな。

教育無償化の議論について岡沢昌代さん(65)と荒井尚美さん(34)が瀬能繁編集委員に話を聞いた。

――子どもの教育無償化に関する議論が活発ですね

「2017年3月に自民党の小泉進次郎氏を中心とする若手議員が『こども保険』を提案しました。一方で、やはり自民党の下村博文氏らは16年から『教育国債』を提唱してきました。2つのアイデアが出たことで教育無償化の議論ががぜん盛り上がってきました」

「政府は17年6月にまとめる経済財政運営の基本方針『骨太の方針』のなかで、教育や子育てなど人材育成の強化を盛り込みます。安倍晋三首相は義務教育は無償と定めている憲法を改正し、大学など高等教育まで無償化を広げることにも意欲を示しています」

――こども保険や教育国債はどんな案なのですか

「保険料か国債で借金かというお金の集め方のほか、無償化の対象に違いがあります。こども保険は、幼稚園や保育所など就学前児童に重点的に配分します。教育国債は、高校や大学といった高等教育が主な対象です」

「小泉氏がこども保険を言い始めたのは、社会保障制度における世代間のバランスの悪さを改善するためです。日本では少子高齢化が進み、社会保障制度は世代間の不公平が目立ちます。若い世代ほど給付より負担超過、年を取っている人ほど負担より給付超過となっているからです」

「そこで、少子化対策を強化して若者や現役世代を支援するため、就学前教育を実質的にタダにしようと考えました。企業に勤めている人は年金の保険料や医療保険といった社会保険料を毎月支払っています。これにこども保険料を上乗せするという案です」

「教育国債は、下村氏ら文科相経験者が提案してきました。日本は教育費に使う税金が、世界的にみて少ないので先進国並みにする狙いです」

――双方の案の問題点は何ですか

「こども保険は現金給付を考えています。しかし保育所が足りず待機児童問題が解消しないなか、お金を配っても使う場所がありません。保育所をもっとつくるなどしてサービスの供給を増やし、介護保険のような現物給付にすべきです。子どものいない人が負担するのは不公平ではないかとの議論もあります」

「教育国債は、教育に使うとはいえ借金は借金です。親世代が負担しなくてはいけないのに子どもたちに借金をつけ回しすることになります。大学進学しなかった人や義務教育しか受けなかった人も将来、納税者として借金の返済をしなければいけません」

「消費税を活用すればいいとの意見もありますが、いまだに税率を10%に上げられないうえ、消費増税で歳入が増えた分の使い道はすでに決まっています。子どもに振り向けるとなると、増税分の恩恵を当てにしていた高齢者などは反対するでしょう」

――無償化の拡大に向けた課題は何ですか

「無償化するとどれくらいお金がかかるのかという政府の試算があります。幼稚園や保育園など就学前で約7000億円、高校でさらに約3000億円、大学になると国公立と私立を含め約3兆1000億円かかります。全部あわせると4兆円超となります。日本の債務残高(借金)は国内総生産(GDP)の2倍を超える規模で、先進国で最悪の状態にありますが、これをさらに悪化させかねません」

「現在は財源や給付の規模、無償化の範囲をどこまで広げるかというお金の議論ばかりが繰り広げられています。どういう人材を育てたいのか、そのためにどんな支援をすべきかという教育の質の議論に全くなっていません」

「今後も経済のグローバル化や人工知能(AI)の進化が予想されます。経済社会の変化を踏まえ、人材を育むために年齢層ごとにどんな支援が必要で、その財源をどう手当てするか。これらを包括した議論が必要になります」

ちょっとウンチク

人材投資 早期ほど効果的

「こども保険」を提案した自民党の若手議員らに影響を与えたとされるのが、ノーベル経済学賞を受賞した米経済学者、ジェームズ・ヘックマン氏の研究である。それによると、人材への投資は高等教育よりも、就学前教育や初等教育など人生の早い時期ほど効果が大きい。所得格差と経済の効率性は、一方を重視すると他方を犠牲にしてしまう関係にあるといわれる。しかし、就学前教育の充実は長い目でみて格差を縮めつつ、経済全体の効率性を高める利点があるとして注目されている。

各党が若者・現役世代向けの支援を競っている背景には、選挙権年齢の18歳への引き下げもある給付型奨学金制度の新設もその一環だ。

(編集委員 瀬能繁)

今回のニッキィ


岡沢 昌代さん 主婦。2カ月前に右足の肉離れを経験したのを機に、体操教室などで体のメンテナンスに努めるようになった。「週2回は意識して体を動かすようになりました」
荒井 尚美さん 不動産会社勤務。週末に2~3時間かけて1週間分の主菜3品、副菜6品を作り置きしている。「毎週、新しいメニューに挑戦してレパートリーを増やしています」
[日本経済新聞夕刊2017年6月5日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は6月19日の予定です。

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