「運動している」20~40代は3割だけ 支援の試みも
「新年度からは定期的に運動しよう」などと決意したものの、日々の仕事を言い訳に実行できない働き盛り世代を支援する取り組みが広がっている。昼休みのオフィス街で職場を超えてラジオ体操をしたり、職場にインストラクターを派遣して簡単な運動をしたり……。こうしたことがオフタイムに体を動かすきっかけになり、生活習慣病の改善や予防、ストレス解消にもつながるようだ。
5月下旬の平日午後0時45分。東京・丸の内のオフィス街の真ん中にOLやビジネスマンら約70人が集まった。街路樹の木漏れ日の下、「腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動」とおなじみのラジオ体操のリズムに合わせ、参加者が体を動かした。
近くの会社で働く女性(45)は「ランチの後に体を動かすとリフレッシュできる。午後の仕事も頑張れそう」と笑顔を浮かべた。
このイベントは東京駅周辺の大手町、丸の内、有楽町エリアで働く人の健康促進を目的に、NPO法人「大丸有エリアマネジメント協会」(東京・千代田)が年に2度開催。参加者にはカードにスタンプを押し、それぞれで全6回の皆勤賞の人にはエリア内でランチの割引を受けられるなどの特典も用意した。
同協会の担当者は「体を動かす機会の少ない人でも、ラジオ体操なら気軽にできる。昼休みに簡単な運動をすることで、病気予防や健康維持も期待できる」と強調する。
ラジオ体操以外にも取り組みは広がっている。
2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控える東京都は職場での運動普及をめざし、企業にインストラクターを無料で派遣する「オフィスdeエクササイズ」事業を昨年度実施。都内の147社に計473回、ウオーミングアップや体力測定などの後、肩こりや足のむくみなど働く人々が抱えがちなトラブルを軽減・予防する運動に取り組んでもらった。
参加した人へのアンケートでは大半が「気持ちが明るくなった」「姿勢が良くなった」など「効果を感じた」と回答。事業終了後も意識して体を動かそうとしている人は9割を超えたという。
企業に社員向け運動プログラムを提供する一般社団法人「10分ランチフィットネス協会」(福岡市)は着替えずに音楽に合わせて10分間で有酸素運動や筋肉強化、ストレッチングができる運動プログラムを考案。福岡市などと連携して昼休みなどに街頭で実施した体操イベントには延べ約8千人が参加したほか、大手ビール会社など7社が同協会のプログラムを導入した。
ただ休憩中は業務時間外のため参加を義務付けられない。社員の中から講師役や呼びかけ役を育成して任意参加を促したり、工場の稼働を一時停止して勤務時間内に実施したりと工夫している。
同協会の森山暎子代表理事は「従業員の健康は生産性の向上につながり、経営上のメリットもある。『健康経営』に積極的な企業が増えつつある」と指摘する。
大手企業でも独自の運動に取り組む例が相次ぐ。三井物産は勤務中に約10分の体操を導入。ミズノは通勤時に1駅手前で降りて歩くと申請した社員に支給する「ウオーキング手当」を導入した。花王は健診結果や毎日の歩数、健康づくりイベントへの参加などでポイントを付与し、健康グッズなどと交換できる。
神奈川県立保健福祉大の渡部鐐二・元教授(応用健康科学)は「職場や仕事の前後に運動することはストレスを軽減し、鬱病などを防いだり、職場間のコミュニケーションを向上させたりする効果もある。1人で取り組むより、長続きしやすい」と話している。
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「運動する」20~40代の3割 忙しい家事・仕事 壁に
国は2021年度までに週1回以上スポーツする人の割合(スポーツ実施率)を65%にする数値目標を設定し、今年度から運動促進キャンペーンを始める。
スポーツ庁健康スポーツ課によると、特に20~40代のスポーツ実施率は3割程度と低迷。運動しない理由は「仕事や家事が忙しい」が32.8%と最も多く、働き盛り世代はスポーツに充てる時間の確保が難しい実態が浮上した。
そこで通勤中や昼休みなどの「すきま時間」に着目。1駅分を歩いて通勤したり、エレベーターを使わず階段を利用したり、と手軽な運動に取り組む人を増やしたい考えだ。
参考としたのが節電を促す「クールビズ」運動だ。近く「ウオークビズ」「スポーツビズ」などのキャッチフレーズを公募。ビジネスシーンで使えるスニーカーや、ジャージー素材など動きやすいスーツの開発、普及に取り組む。同課の担当者は「おしゃれに取り組めるキャンペーンにしたい」と意気込んでいる。
(倉辺洋介)
[日本経済新聞夕刊2017年6月1日付]
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