世界の不安映す カンヌ映画祭 『スクエア』に最高賞

リューベン・オストルンド監督「スクエア」
リューベン・オストルンド監督「スクエア」

第70回カンヌ国際映画祭はスウェーデンのリューベン・オストルンド監督「スクエア」が最高賞のパルムドールに輝いた。受賞作に目立った不条理なドラマに、世界の不安が映っていた。

現代美術館のキュレーターが展覧会を準備している。人類の仲間としての責任ある役割を思い起こさせるために、人々に「利他主義」を促す広場を作るのだ。

それはきれいごとですまなかった。キュレーターはホームレスに、子供たちに、愛人に、理不尽な要求を突きつけられ、従わねばならなくなる。サルのような男が、盛大なパーティーをめちゃくちゃにする。じっと耐え続ける参加者たちが、何物かに縛られた現代人の姿に見えてくる……。

現代社会を批判

「スクエア」は典型的な不条理劇だ。政治的に正しいことをしようとして、どんどん窮地に陥る。それを執拗に描き、人間の悪意を隠蔽する現代社会の欺瞞(ぎまん)をあらわにする。「プレイ」「フレンチアルプスで起きたこと」のオストルンドらしい現代社会批判だ。しかも「信じられない想像力」(ペドロ・アルモドバル審査員長)で描き出す。

第70回記念賞を受けたニコール・キッドマンが出演した2作品も不条理劇だ。

ギリシャのヨルゴス・ランティモス監督「キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」では主人公の外科医の家族が、患者の少年のために崩壊する。外科医と少年は友好的に互いの家を訪ねるが、次第におかしくなる。少年の母が言い寄ってくる。少年は娘を誘惑する。妻の疑心は強まる。

少年の呪いが解けない。外科医の心の闇のせいだ。その不安が悪夢として具現化する。脚本賞も受けた。

もう1本の米国のソフィア・コッポラ監督「ザ・ビガイルド」は、クリント・イーストウッド主演、ドン・シーゲル監督の「白い肌の異常な夜」の再映画化。南北戦争で傷を負った北軍兵士が、南部の森の女子寄宿学校に運び込まれ、女たちの欲望と嫉妬に戸惑う。

この学校も不条理の迷宮だ。シーゲル版が男の動揺に焦点を当てたのに対し、女の欲望を大胆に描く。ソフィアが監督賞を受けた。

ホアキン・フェニックスが男優賞、英国人監督のリン・ラムジーが脚本賞を受けた「ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア」も幼少期のトラウマに悩む男の不条理な行動を追う。少女を救うため金づちで敵をバタバタと殴り倒す男は、本当は何に突き動かされているのか?

審査員賞のロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督「ラブレス」は、離婚する両親の無邪気な行動を冷徹に描くことで、息子の置かれた不条理な状況と疎外感を浮き彫りにした。

どの作品も不条理の裏に不安心理がある。政治も社会も家族も信じられない。そこに世界の不安が映る。

ロバン・カンピヨ監督「BPM(ビーツ・パー・ミニット)」

グランプリを獲得したフランスのロバン・カンピヨ監督「BPM(ビーツ・パー・ミニット)」は一服の清涼剤だった。1990年代初頭にエイズウイルス感染者の人権を守るために闘ったパリの若者たちの物語。清潔でリアルな描写から、ピュアな感情が伝わった。ダイアン・クルーガーが女優賞を受けたドイツのファティ・アキン監督「イン・ザ・フェイド」はネオナチのテロで息子と夫を奪われた母の闘いを力強く描いた。

「光」は賛否割れる

河瀬直美監督「光」は賛否が分かれた。新聞評は「甘ったるさと紙一重のなめらかさ」(ルモンド)、「不確かな視点」(リベラシオン)と厳しかった。一方、エキュメニック賞の審査員団は「他者をよりよく理解する心を広げ、闇にいる人々でさえ光を見る可能性を切り開く」と称賛した。

テロの頻発、政治危機の高まりなど、ますます混迷する世界と向きあう作品がそろっていた。その中で強く希望へと向かう「光」は異彩を放っていた。

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2017年5月30日付]