もっとエコに HV車は加速しっかり、ブレーキ早めに

NIKKEIプラス1

燃費の良いエコカーをよく見る。ガソリン車と電気自動車(EV)の利点を生かしたハイブリッド車(HV)を中心に普及率は8%を超えた。実はエコカーは独自の運転技術で劇的にエコにできる。プロに習い実践した。

訪ねたのはHV車のエコドライブ教習を行っている自動車教習所、ファインモータースクール(さいたま市)。講師は全日本エコドライブコンテストで総合優勝した経験があるプロ中のプロ。優勝メンバーの一人である福田慎太郎さんに手ほどきを受けた。

教習車はトヨタ自動車の3代目プリウス(排気量1800cc)。カタログ上の燃費は1リットル当たり35.5キロメートル。この7割程度(約25キロメートル)が実燃費といわれている。

走行前の重要な注意点はアクセルペダルを足の裏全体で踏めるように足を置くこと。こうすると微妙な調整がとてもやりやすくなる。

まずはさいたま市内の路上5.4キロメートルのコースを何も習わずに走る。「いつも通りの運転をしてください」と福田さんに言われたが、実はエコ運転には自信があった。日ごろから急発進、急停車は避ける運転を意識している。

燃費は1リットル当たり22.5キロメートル。悪くはないが思ったほど良くもない。実はガソリン車のエコ運転が逆効果になったのだ。アクセルを緩やかに踏む「ふんわり発進」はHVでもエコになる。

問題はその後。引き続き緩やかに加速したが、これが良くないという。福田さんには「電気走行とガソリン走行をうまく使い分けられていない」と注意された。

HV車は主にガソリン走行中に自分で発電することで電気走行が可能になる。電気は低速域が得意で、極端な話、電気走行だけでノロノロ走れば燃費は稼げる。ところが、それではバッテリーは減り続ける。電気走行ができなくなると強制充電が働き、効率の悪い低速でもガソリン走行に切り替わってしまうのだ。

もう一つ大事なのがブレーキ操作。ブレーキをかけている時にもタイヤが回転する力でモーターを回して充電できるからだ。ブレーキを緩く長くかけることで充電し、電気走行できる距離を伸ばすことがエコ運転のコツになる。

よし、理屈はわかった。試してみようではないか。

加速はアクセルをしっかり踏み込みエンジンを意図的に回転させた。スピードを出せる50キロ制限の道ではガソリン運転で定速運転。充電を意識する。30キロ制限の道では蓄えた電気でガソリンを使わずに走った。信号が赤になったらすぐにブレーキペダルを緩く長く踏み、電気を蓄える。

結果は1リットル35.3キロメートル。講習前を約57%上回った。この燃費で1年間、1万キロメートル走った場合、ガソリン代(単価134円)は2万1595円お得になる計算だ。コースはバス路線だったこともあり、平均速度は時速15キロメートル前後と遅めだ。走行時間は18分弱。「驚くほど改善されました」と福田さんには褒められた。

EVのエコ運転も学べると聞いて、日本自動車連盟(JAF)埼玉支部の研修にも参加してみた。日産自動車のリーフで教えてくれたファインモータースクールの古田秀人さんは、福田さんと同じ全国優勝メンバーの一人だ。古田さんの経験では「時速20~30キロメートルが最も電費効率がいい」。EVは燃費ではなく「電費」と言う。エコ運転のポイントは1つ。なるべく低速で運転することだ。つまり、都市部の街乗りに向いている。

さいたま市がリース契約している最新の燃料電池車、ホンダのクラリティフューエルセルも試乗した。水素と空気中の酸素の反応で生じた電気で走る。低速の方がエコなのはEVと同じ。ただ、750万円以上もする高級車なので静かさや加速のパワーは抜群だ。いずれはこうした究極のエコカーを手に入れ、エコ運転を試してみたいものだ。

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先読み運転、安全面も効果

前方を早めに確認することがエコ運転につながる

エコ運転を実践すると、結果的に安全運転になることが体感できる。教習の好成績に気をよくして、ハイブリッドカー(トヨタ・アクア)を借りて東京都内を走ってみた。すると、前方の状況を早めに確認する「先読み運転」が自然に身についてきたのだ。

約1時間、新宿→渋谷→霞が関→大手町→新宿という都心ルートを平均時速18キロで走った。燃費は1リットル29.4キロメートル。なかなかのエコ運転ではないか。

車間距離を保ち余計なアクセルは踏まず、長いブレーキは後続車にランプで減速を早く知らせることができる。集中力が高まり、なおかつ楽しい。エコ運転は安全運転。それを実感できたことが最大の成果だった。

(大久保潤)

[NIKKEIプラス1 2017年5月27日付]