『家族はつらいよ2』 ドタバタで笑いのめす
「東京家族」の平山家の8人が、そのまま平田家として出演した喜劇「家族はつらいよ」から1年。8人が3度集まった山田洋次監督の続編だ。アンサンブルもこなれ、なじみの家族の騒動に出だしから笑える。
鏡の前で鼻の穴を広げて鼻毛を切る周造(橋爪功)の大写し。73歳だがまだつやっぽい。長男夫婦(西村雅彦、夏川結衣)、長女夫婦(中嶋朋子、林家正蔵)、次男夫婦(妻夫木聡、蒼井優)は事故を心配し、運転免許の返上を勧めるが、聞く耳をもたない。まっすぐモノが言えない子供たちに「この家族は崩壊している!」と逆ギレする。
妻(吉行和子)の北欧旅行をいいことに、小料理屋の美人女将を車に乗せた周造は、工事現場で車の誘導をする高校の同級生、丸田(小林稔侍)に偶然出会う。
破産、離婚を経て孤独に暮らす丸田を旧友たちと囲んだ夜。泥酔した丸田を家に泊める。翌朝……。
大家族のすれ違いを描く前半から、ころぶ、ぶつかるというスラップスティック(ドタバタ)の連続だ。橋爪を中心に、人物の動揺やこわばりを身体で表現する。山田喜劇の肝だ。
後半は「東京物語」で子らの現状に落胆した笠智衆が旧友の東野英治郎と痛飲し、娘の家に連れてくる場面を連想させる。だが翌朝は一転、ブラック喜劇に。
ここでも2階という見えない空間の出来事を巡る、家族のてんやわんやがおかしい。最後は階段を使った究極のドタバタまである。
無縁社会の悲しい死に触れ、手前勝手だった人々が家族の大切さを思い出す。そんな筋自体は平凡なものだが、これを徹底的にスラップスティックにして笑いのめすのがユニークだ。
人間はことほど左様に、自分勝手で頑固で押しつけがましく、でも押しつけられるのが大嫌い。家族は本当に面倒くさい。でも家族がなければこんな笑いもない。1時間53分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2017年5月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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