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ニッキィの大疑問

「共謀罪」何が問題? 対象が不明確、法律乱用も懸念

2017/5/22付 日本経済新聞 夕刊

民進、共産などが委員長席に詰め寄るなか、与党などの賛成多数で「共謀罪」法案を可決した衆院法務委(5月19日午後)

国会で議論が紛糾しているテロ等準備罪って新聞でよく見る「共謀罪」のことよね。どんな法案で、何が問題になっているの。このまま法案が成立すると、私たちの生活にも何か影響が出るのかな。

19日の衆院委員会で可決された、いわゆる「共謀罪」法案について、洲崎理差子さん(41)と安斎あずささん(56)が坂口祐一編集委員に話を聞いた。

――「共謀罪」ってどんなものですか。

「日本では犯罪を実行したことを罰するのが原則です。それに対して、共謀罪は犯罪の計画に合意したこと自体を罪ととらえ、犯罪を実行する前に処罰しようというものです。深刻な犯罪を未然に防ぐことが狙いです」

「共謀罪を巡る法案が最初に国会に出されたのは2003年です。これまでに計3回提出されましたが、3回とも廃案になっています。当時は刑が懲役4年以上の600を超える罪種が適用対象とされました。あまりに範囲が広く、日常生活に直接関係する道路交通法違反なども入っていました。また、居酒屋で『気に入らない上司を殴ってやろう』という話で同僚と盛り上がっただけで摘発されかねないなど様々な批判が相次ぎました」

――どうして政府はまた法案を出したのですか。

「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結する必要があるためです。麻薬の密売や人身売買、マネーロンダリング(資金洗浄)など組織犯罪への取り組みの強化は国際的な課題となっています。取り締まる法律などを統一し、国際社会が団結して組織犯罪を封じ込めていこうと、2000年に条約が採択されました。締結すると、国をまたいだ組織犯罪の捜査協力や情報交換、容疑者の引き渡しが円滑にできるようになります」

「今年4月現在、187カ国・地域が条約を締結し、国連加盟国で未締結は日本を含め11カ国のみとなっています。締結する際の条件の一つが、共謀罪または参加罪の導入です。参加罪はマフィアなど犯罪組織の活動に参加すると処罰されます。日本では憲法で結社の自由が保障されているなど参加罪の創設は難しいということで、共謀罪の導入を目指しています」

――なぜ、国会での議論は紛糾しているのですか。

「今、国会で議論しているのは、共謀罪の要件を改め、テロ等準備罪を新設するための組織犯罪処罰法の改正案です。組織犯罪やテロと無関係なものを外し、対象となる罪を277に減らしました。それでも罪となる範囲は広く不明確で、一般市民が巻き込まれる懸念は残ります。捜査当局による法律の乱用を心配する声も少なくありません」

「政府はテロ防止のためには新しい法律が必要であり、2020年の東京五輪に間に合わせなくてはいけないと説明しています。一方、野党は個人の思想や内心を罰する法律の本質に変わりはないとして反対しています。既にハイジャックや化学兵器の使用などには犯行の前の段階を罰する予備罪もあり、わざわざ法改正しなくても条約は締結できると主張しています」

「法案が成立しても本当にテロ対策に役立つのかという疑問もあります。欧米ではテロを未然に防ぐため、捜査機関や情報機関が幅広い通信傍受や司法取引を活用しています。日本ではこうした手法は認められておらず、テロ等準備罪ができても実際に立証するのは難しいと思います」

――成立すると私たちの生活に影響が出ますか。

「一般の人の生活に影響が出たり、政治的な活動をためらわせたりしない仕組みにすることが大切です。そのためには対象となる罪種のさらなる見直しなどが必要でしょう。なにより法案成立を急ぐのではなく、国会での審議を丁寧に積み重ね、組織的犯罪集団やテロの定義を明確にしなくてはなりません。警察の捜査をチェックする立場の検察や、刑事責任の有無を判断する裁判所が本来の機能を十分に果たすべきであることは言うまでもありません」

「TOC条約を締結する意義、必要性を理解したうえで、恣意的に運用される心配を最小限に抑え込めるような制度づくりが求められます」

■ちょっとウンチク

日本のテロ対策、連携を重視

国際的に見れば、日本の警察のテロ対策は独特なものといっていい。令状の要らない通信傍受や身体拘束などの権限は持たず、民間の事業者と連携した地道な取り組みを重視している。大きなイベントの際には駅のロッカーを使えなくし、ゴミ箱を撤去。爆弾の材料になる薬品を大量に買う人がいたら連絡してもらえるよう、警察官が薬局やホームセンターを一店一店回る――といった具合だ。

厳しい銃規制などもあり、日本では欧米のようなテロは起きていない。だからこれまでの取り組みを続けていけばいいのか、それとも「国際標準」を参考に次の一手を考えるべきなのか。テロ対策には共謀罪だけでなく、こうした根本にかかわる議論が必要だ。

(編集委員 坂口祐一)

■今回のニッキィ
洲崎 理差子さん 団体職員。一昨年まで14年間、ヨガとダンスの講師をしていた。今は趣味として続ける。「よく眠れるようになり、心身共に健康になっていくのが実感できます」
安斎 あずささん 医薬品卸勤務。昨年末、久々に公演を見たのをきっかけに、クラシックバレエの鑑賞にはまっている。「非日常が味わえるぜいたくな時間を楽しんでいます」

[日本経済新聞夕刊2017年5月22日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は6月5日の予定です。

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