曲目は人気投票で決定 オーケストラが相次ぎ導入
オーケストラが人気投票の結果を踏まえ演奏曲を決める。そんなリクエスト形式のコンサートが増えている。聴衆参加型の公演で、新たなファンを掘り起こそうとする試みだ。
4月中旬、新日本フィルハーモニー交響楽団の本拠地すみだトリフォニーホール(東京・墨田)で、7月21、22日の定期公演「リクエスト・コンサート」の曲目が発表された。選ばれたのはベルリオーズ「幻想交響曲」とパガニーニ「バイオリン協奏曲第1番」。いずれも数々の楽団が演奏する屈指の人気曲だ。音楽監督の指揮者上岡敏之は「皆さんのリクエストから超絶技巧をテーマに選んだ。いずれもクオリティーの高い演奏になりそう」と自信を見せる。
このリクエスト・コンサートは聴衆の人気投票に基づく新たな形式の公演だ。昨年9月から今年2月までに定期公演に来た聴衆や定期公演の会員を対象にアンケートを実施し、その結果をもとに、最終的に上岡が曲を決めた。
新日本フィルがこの形式の公演を始めたのが15年末。かき入れ時の年の瀬ともなると、ベートーベン「交響曲第9番(第9)」のほか、クリスマスコンサートで定番の曲を演奏することが多く、どうしても演奏する曲は偏りがちだった。
そこで、「新たなファン層を開拓するにはいい形式」(同楽団の横山利夫専務理事)として、実験的に演奏曲アンケートを実施。ドヴォルザーク『交響曲9番「新世界より」』とブラームス「交響曲第1番」と重量級の楽曲が選ばれた。
初回は周知期間が短かったこともあり、客足はそれほど伸びなかった。だが、昨年9月に音楽監督に就任した上岡が「面白い企画だ」と賛同。定期公演にこの形式を導入した。横山氏は「30年以上欧州で活動する上岡さんは日本の既存のオケではやらないことを積極的にやってくれる」と期待する。
日本を代表するプロ吹奏楽団、東京佼成ウインドオーケストラは、高校の吹奏楽コンクールの課題曲を集めた来年2月の「課題曲コンサート」(東京オペラシティ)で初めて投票形式を導入する。吹奏楽コンクールは野球の「甲子園」に相当する、吹奏楽部員にとっての一大イベント。幅広い年代層のコンクール経験者を取り込む狙いがある。
課題曲から発掘
同楽団で企画・広報を担当する遠藤敏氏は「課題曲はその年のコンクールが終わると途端に演奏されなくなる。そうした曲を発掘し、レパートリーに加えたい」と話す。投票は今年8月ごろまで受け付け、結果を踏まえて約200曲ある過去の課題曲の中から5曲ほど選ぶ。
プロのオーケストラは通常、楽団の音楽監督や公演指揮者らと相談のうえ、自ら定期公演の曲目を決める。楽団の主要聴衆である定期会員は、曲目や指揮者をもとに、どの公演に行くか判断する。しかし、近年は聴衆の固定化が著しく、新たな聴衆の獲得はどのオケにも共通する課題だ。
各オケは平日昼間に高齢者や主婦向け公演を開催するなど新たな試みを始めており、投票形式の公演もその一環。新日本フィルで運営の最高責任者「インテンダント」を務める井上貴彦氏は「聴衆の意見を反映させる参加型の公演はポピュラー音楽の世界ではあったものの、クラシックではあまりなかった」と言う。
サイコロ振って
交響曲からオペラまで多彩なレパートリーが特色の東京フィルハーモニー交響楽団。2016年から、毎年オーチャードホール(東京・渋谷)で開くニューイヤーコンサートでは、当日の来場者による投票の上位に入った曲のほか、ステージ上で指揮者がサイコロを振って選んだ曲を演奏する方式を採り入れた。
楽団があらかじめ選んだ20~30曲から選ぶため、指揮者やオーケストラにとってはすべての曲を想定して練習しなければならず、負担は大きい。しかし、このニューイヤー公演は人気で、昨年、今年とも満席。来年も同型式の公演を開く。東京フィルの岩崎井織企画制作課長は「正統派のウィンナーワルツ中心のニューイヤーもいいが、誰もが知る名曲の旋律を気軽に聴くのも日本ならではの聴き方ではないか」と話す。
(文化部 岩崎貴行)
[日本経済新聞夕刊2017年5月22日付]
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