高齢者の生活支援サービス続々 家族の負担減にも
高齢者の在宅生活を支える有料サービスが相次ぎ登場している。掃除や洗濯、ちょっとした困り事を請け負う。介護保険では対象にならない日常生活のお世話が主な内容。保険外サービスは高齢者夫婦が互いを介護する老々介護の場合など、家族も利用でき、うまく活用すれば家族の負担も軽減できる。サービスの現場を訪ねた。
5月上旬の昼、東京都板橋区の高島平団地。「お久しぶりです」と明るくはつらつとした声の主は、高齢者の生活支援サービス、御用聞き(東京・板橋)の古市盛久社長(38)。訪れたのは、団地で一人暮らしをする大竹玉枝さん(77)宅。古市さんは大竹さんから居間のパソコンコーナーの移設とテレビ裏の配線の整理などの模様替えを頼まれた。
「家電製品の取り扱いはお年寄りにとって難題」と話す前掛け姿の古市さんはテキパキ仕事をこなす。所要時間20分。「今日は1200円です」と古市さん。模様替えや家具の移動は5分で300円だ。「助かるわ。また頼むわね」と話す大竹さんは、古市さんとの会話も楽しみにしている。
古市さんが事業を始めたのは5年前。顧客の大半が要介護状態で独居する人や要介護の夫と、夫を介護する妻の二人暮らしの高齢者だ。「高齢者が苦手な電球の交換や水回りのパッキン交換は、公的な介護保険の対象サービスにはない。保険外の分野で地域貢献したい」と古市さん。
公的な介護保険は65歳以上で認定を受けた人と特定の病気で介護が必要な40歳以上の人が利用できる仕組み。介護必要度に応じたサービスを受け、利用者は原則、費用の1割を負担する。在宅の場合は、介護ヘルパーによる身体介助や自立のための生活援助などだ。
介護保険の対象メニューは細かく決められている。例えば食事を作るのは要介護者のためであり、同居する高齢者であっても、世話をする人の分は作らない決まりになっている。
首都圏と大阪で在宅介護事業を展開するセンチュリーライフ(東京・港)は、家族の世話をする人の生活支援も、1時間2500円で引き受ける。利用者にとっては「顔なじみで信頼できるヘルパーが指定された時間に食事を調理して取り置いてくれるなど、安心感がある」と同社の介護支援専門員の近藤貴子さん。
家事全般だけではない。訪問看護のホスピタリティ・ワン(東京・港)は、入院中の高齢者が一時退院する際に看護師を自宅まで付き添わせるサービスを実施している。介護保険に基づく訪問看護は、入院中の人は使えず、一時退院した要介護者の世話は病院を出た時から家族などが担うことになるからだ。
料金は1時間6000円からで、4時間ほど使う人が多いという。「退院させて在宅介護が可能なのかどうかを見極めたいと考える家族などが利用する場合が多い」(高丸慶社長)。
自治体も保険外での生活支援サービスを始めている。東京都新宿区の「介護者リフレッシュ支援事業」は、認知症の高齢者を介護する人の家事を援助する。同区内に住む54歳の女性は「81歳の父の介護で鬱になりかけたが、区に相談して支援を受け、精神的な疲れが和らいだ」と振り返る。
国の社会保障費は膨らむ一方。特別養護老人ホームをはじめとする施設の増設は難しく、在宅での介護を推進する流れにある。そんななか、保険内と保険外のサービスを一体化させ、高齢者の利便性を高めようとする考えが広がる。
ただ一方で、一体化するほど「どこまでが保険内でどこからが保険外かが曖昧になり、料金トラブルが多発しかねない」(大手介護事業者)といった声もある。利用者とその家族は、内容や料金体系について事業者に確認したほうがいい。在宅サービスは高齢者が単独で受けることもあるため、それを悪用して高額の料金を請求するケースもある。不審に感じたら自治体や地域包括支援センターなどに相談してみよう。
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在宅医療でも負担減の動き
在宅医療の世界で医師と看護師だけでなく、相談員として患者宅まで社会福祉士を同行させ、患者と家族双方が抱える様々な負担をケアする動きが出てきた。
東京都町田市の「在宅療養支援クリニック かえでの風」はその一つ。昨年1月に社会福祉士を採用し、現在2人でケアする。最期は自宅で迎えたいというニーズが高まり、よりよいケアを実現するため社会福祉士に注目した。
社会福祉士の佐藤淑子さんは、患者の死後、家族に寄り添い悲しみや喪失感をサポートするグリーフケアに力を入れる。グリーフケアでは、死を前にした患者に佐藤さんが代筆の形で、人生を振り返ってもらったり、大切な出会いを語ってもらったりする。
書面は死後、家族に渡す。家族への感謝をつづったものが多く「残された家族の癒やしになり、喪失感が軽減される」と佐藤さんは話す。
(保田井建)
[日本経済新聞夕刊2017年5月18日付]
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