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ウェブでマンガ新時代 試行錯誤からヒット作相次ぐ

2017/5/9付 日本経済新聞 夕刊

 ウェブで発表された作品を、スマートフォンで読み、ツイッターで感想をつぶやく。こんな新しいマンガの読み方が定着するなか、ウェブならではの新たな表現も生まれてきた。

 「全く新しい形式だから試行錯誤の連続」。スマートフォン(スマホ)向けマンガアプリ「comico」で「ReLIFE」を連載中の夜宵草氏は笑う。

■自由なコマ数

スマホ閲覧を想定し、縦スクロールで読みやすいように描かれている(夜宵草著「ReLIFE」145話、(C)夜宵草/comico)

 主人公は27歳の男性。「リライフ研究所」の被験者に選ばれて見た目だけ若返り、1年間、高校生活をやり直す。女子高生から口コミで人気が広まり、単行本(1~7巻)の発行部数は150万部を超え、アニメや映画の原作にもなった。

 comicoはフルカラーで、縦にコマが並ぶのが特徴。「紙媒体と違ってコマ数に制限がないから、空白をぜいたくに使える。見せ場の前に空白で『間』を作って読者の意識をひき付けたり、時間の経過を表現したり。新しい表現を試せるのは面白い」と作者は言う。

 ヒット作は交流サイト(SNS)からも生まれる。イラスト・マンガ投稿サイト「pixiv」発の「ヲタクに恋は難しい」は、マンガやゲームに熱中する男女がオタクカップルならではの会話を繰り広げる。一迅社から単行本化され、1~3巻で300万部(電子書籍含む)を突破した。

 著者のふじた氏は当初、週1回、1ページを投稿。「1ページに起承転結があり、オチがつくようにした」。毎回、「(強烈な印象の)パワーワードを大きいフォントで置く」などスマホでも読みやすい構成が奏功して話題に。スピード感があり読者を飽きさせない。

 サイトを運営するピクシブ(東京・渋谷)の石井真太朗マネジャーは「オタクを前面に出す作品がヒットしたのはSNSならでは。マンガ誌を読まない読者層も開拓した」と語る。

 パッと見て面白さがわかる4コマや1コマのマンガにヒット作が多いのもウェブの傾向だ。ツイッターで発表して人気を集めた、黒川依氏の1コマ「ひとり暮らしのOLを描きました」。第1話「こんなにいいお天気なのに会社へ行くためのエネルギーを蓄えているひとり暮らしのOL」は、泣きながら目玉焼きを食べるスーツ姿のOLを描く。ツイッターに最適な表現を探し、1コマにたどり着いた。

 「面白い」「ふびんかわいい」と評判が拡散されて、ウェブ雑誌「WEBコミック ぜにょん」(コアミックス)で連載中。累計閲覧数は460万に上る。

■変わる作家像

黒川依著「ひとり暮らしのOLを描きました」(C)黒川依・pickles the frog/NSP 2015

 こうした状況を受け、京都精華大マンガ学部は「新世代マンガコース」を今年、新設。画や物語の作り方だけでなく「ウェブで発信する『セルフプロデュース』の仕方も教える」と、教員でマンガ家の田中圭一氏は語る。田中氏はエッセーコミック「うつヌケ」を、ウェブサービス「note」で1話、100円で配信。ツイッターのフォロワーを中心に毎回、数千人が購入し「独身1人が食える額」を稼いだ。新たなマンガ家のあり方として注目される。

 日本のマンガ界の主流は長大な物語を描くストーリーマンガで発表媒体は主に雑誌連載。だが、1960年代以前は1コマ、4コマこそ中心との見方もあった。ウェブマンガの台頭は先祖返りともいえる。

 マンガ評論家の伊藤剛氏は「今は市井の人が身近にあったこと、人に伝えたいことを、マンガの形で発信している。落書きのような絵でもかまわない。面白ければあっという間に100万人の目に触れる。ウェブの登場でマンガが本来持つ多様性が再びあらわになってきたのでは」と話す。

(文化部 佐々木宇蘭)

[日本経済新聞夕刊2017年5月9日付]

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