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2枚目の名刺、違う自分発信 趣味や成長のバネに

2017/4/3付 日本経済新聞 夕刊

 春は就職や人事異動の季節。新しく名刺を作る人も多い。肩書や職種を示すものとしてビジネスパーソンにとって必須といえる存在だが、最近は「2枚目の名刺」が注目されている。どんなメリットがあり、実際に使う場合は何に注意すればいいのかをまとめた。

 島根県へのUIターン希望者に対する支援を行うふるさと島根定住財団(松江市)。職員の奈良井健悟さん(35)は、同財団のロゴマークや担当課が記された名刺とは別に、もう1枚の名刺を持っている。

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2枚目の名刺を活用する人が増えている(松江市のふるさと島根定住財団)

 2枚目の名刺の表面は、地元の宍道湖(しんじこ)を背景にした自分と家族のイラストが入っている。裏面に記されているのは、小売業界から転職した経歴と転職の理由。さらに、趣味の欄もあり、「テニス」の項目では同県出身のテニスプレーヤー錦織圭選手と対戦経験があること、「甘い物を食べること」では「朝食からケーキ1ホールいけます」など具体的に書いてあるのが目を引く。

 「人見知りだったので、何か会話のきっかけになればと思って」と奈良井さん。「名刺が最大のセールスマンである」という講演を聞き、3年前から自前で作るようになった。さらに、イラストは中学時代の同級生である地元のアーティストに依頼。「イラストは誰が描いたの?」と聞かれることも多く、アーティストの名前を答えると盛り上がる。「この名刺を出すことでぐっと話しやすくなった」。名刺に書く内容は、できる限り具体的にすることや地元を意識したイラストにする。物語性を持たせることをポイントに挙げる。

 同僚の小笠原啓太さん(33)も、2枚目の名刺を使う。プライベートで100人規模の交流イベントを主催する団体「シマブロ!」に所属しており、その名刺を別途作っている。場面に応じて使い分けている。

 初対面の相手と交流する入り口の一つとして名刺は日本のビジネスシーンで当たり前のように使われている。2枚目の名刺は、本業以外の副業や、趣味の延長線上での活動を紹介する際に使われてきた。近年は経営学者のピーター・ドラッカーも提唱した、本業以外の仕事を持つことや非営利の社外プロジェクトに参加することを意味する「パラレルキャリア」の文脈で関心が広がり、2枚目の名刺を活用するビジネスパーソンが増加している。政府が「働き方改革」として正社員の副業や兼業を後押しする姿勢を示していることも後押しする。2枚目の名刺の関連書籍も相次いで発刊されている。

 2枚目の名刺を持つにはどうすればいいのか。きっかけづくりを指南するNPO法人「二枚目の名刺」(東京・渋谷)は、ビジネスパーソンが社会課題解決に取り組むNPOの紹介や、行政と一緒になってプロジェクトに挑む機会を提供している。同NPOの松井孝憲理事は、ビジネスパーソンが2枚目の名刺を持ち、社外でのプロジェクトを経験する意義について「社会との接点を広げ、自己成長や新しい可能性との出合いにつながる。本業にも生きてくる」と強調する。

■情報集めやすく

 では、2枚目の名刺を作る場合、どんなことに気を付ければよいだろうか。過去に同NPOの代表としても活動した精密機器大手勤務の杉谷昌彦さんは「まずは作って、渡して、話してみよう」とアドバイスする。

 本業の名刺なら業務内容以外には話題が広がりにくいが、大切にしている価値観、取り組んでみたいことを2枚目の名刺で伝えることで、仲間や情報が集まりやすくなる。自分の強みを最初から把握できているわけではない。名刺を作って一歩を踏み出してみることが大事という。「人に話して行動していく中で多様な見方に触れ、自分自身の内省につながり、思いが固まっていく」(杉谷さん)

 結果的に2枚目の名刺に書いたことが本業になるケースもある。それも効果の一つとも考えられる。しかし、まず気を付けるべきことは、本業をおろそかにしないことだ。そうなれば本末転倒。1枚目の名刺があってこその2枚目の名刺だということを忘れず、上手に活用したい。

(ライター 田中 輝美)

[日本経済新聞夕刊2017年4月3日付]

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