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ジンギスカン@「遠野物語」 肉文化もり上げるバケツ

2017/3/28付 日本経済新聞 夕刊

通気孔を開けた「ジンギスカンバケツ」で焼く

 ジンギスカンといえば北海道をイメージする人が多いだろうか。実は民俗学者である柳田国男の「遠野物語」の舞台として知られる岩手県遠野市にも、独自に発展したジンギスカン文化がある。市民にとって焼き肉は牛肉でも豚肉でもなく羊肉だ。真ん中が盛り上がった南部鉄器製のジンギスカン鍋はどこの家庭にも1台以上あるという。

「あんべ」のラムカタロース定食

 その秘密を探るべく、遠野の老舗専門店「あんべ」を訪ねた。おすすめの「ラムカタロース定食」を頼むと、タマネギやモヤシなどの野菜とともに、赤身と脂身のバランスがよく色鮮やかな生の羊肉が運ばれてきた。北海道ではタレに漬け込んだ味付き肉を出すところが多いが、遠野では焼いた後にタレを付ける。

◇     ◇

 店内に食べ方の説明書きがあった。鍋が温まってきたら付いてきた脂を全体に塗り、真ん中に置く。野菜を鍋の縁に並べ、空いている場所に肉をのせる。すぐにひっくり返さず、しばらく我慢。肉の縁に焼き色が付いたらひっくり返し、少し焼いたミディアムレアが食べごろだ。

 特製のタレをたっぷり付けて食べると、ほどよい歯応えで、口の中にラム肉の甘みが一気に広がる。懸念していた臭いはまったく気にならない。最初さっぱりしていたタレは肉汁と混ざってさらに味わい深くなり、肉、野菜とともにご飯がどんどん進む。

筋繊維の方向を確認しながら包丁を入れていく安部吉弥さん

 「肉の品質にはこだわっています」。社長の安部吉弥さん(47)が自信を持って説明する。自然の牧草を与えられたオーストラリア産の羊肉をチルド状態で輸入。鮮度が劣るものは返品するという。「経験がないと見極めが難しいんですが、遠野では全体的にレベルが高いですよ」

 安部さんは3代目。遠野でジンギスカンを始めたのは初代の梅吉さんだ。戦時中に旧満州(現中国東北部)で羊肉料理を食べていた梅吉さんが自家製のタレを開発、1955年ごろから店で出し始めた。

 岩手県では英国発祥の毛織物「ホームスパン」製作のため、羊の飼育が盛んだった。新鮮な肉が身近にあったものの食べる習慣はなく「当初は『羊の肉を食っているのか』と笑われたようです」。味を知ってもらおうと祭りで安く販売するなどしてPR、店に行列ができるようになった。

 さらに人気を高めたのが2代目の好雄さん(76)が考案した「ジンギスカンバケツ」だ。イベントなどで貸し出していた七輪は配達途中に割れることが多かった。好雄さんはバケツに通気孔を開け、固形燃料を使うことを思いついた。店頭で鍋とバケツの無料貸し出しを始めると、手軽さが受け、瞬く間に広まった。

 現在、専門店は4店。「遠野食肉センター」は遠野でいち早く子羊のラム肉を扱った。成長した羊のマトン肉が主流だった50年ほど前、臭いがないラム肉を出すようになった。同店は「現在でも肉の鮮度を大切にしています」と説明する。2店を経営する「まるまん」では食べ放題コースが人気。バジルやクミンをまぶした肉もあり、焼いた後、タレを付けないで食べる。

 このほか市内の焼肉店や食堂にもメニューにジンギスカンがある。鍋とバケツの無料貸し出しは精肉店やスーパーでもやっている。使った後、洗わずにそのまま返却できるのが便利だ。

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