企業買収 損失なぜ出る? 稼ぐ力、想定下回ると価値低下

米原発事業に関連する巨額損失について記者会見する東芝の綱川社長(右)ら(2016年12月27日、東京都港区)
米原発事業に関連する巨額損失について記者会見する東芝の綱川社長(右)ら(2016年12月27日、東京都港区)

東芝の巨額損失が大きなニュースになっているわね。買収した米国企業で問題が起きているのが原因らしいけど、なぜ企業買収で損失が出るのかな。

企業買収で生じる損失について、松田正子さん(62)と関満子さん(48)が小平龍四郎編集委員の話を聞いた。

東芝の巨額損失が大きなニュースになっていますね。

「東芝は2006年に買収した米国の原子力事業会社、ウエスチングハウス(WH)に関連して巨額の損失が発生したため、2月に発表するはずだった16年10~12月期の決算発表は2度も延期されています」

「11年3月の東日本大震災で発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故をきっかけに、世界的に原発への規制が強化され、WHが手掛けている原発新設工事が当初の想定より大幅に遅れて費用が膨らんでいます。さらに、WHが買収した米国の原発関連工事会社(東芝からみると孫会社)でも想定外の巨額損失が発生する見通しです」

「このため、東芝が帳簿上に資産として計上していた『のれん』の価値を引き下げる必要に迫られました。これを会計用語で『減損』といいます。すでに16年3月期で約2500億円の減損損失が発生しているのに加え、17年3月期でも7000億円以上の損失を計上する見通しです。このため、17年3月末時点で自己資本がマイナスになる、いわゆる債務超過になってしまいます」

「のれん」とは何ですか。

「企業買収の交渉では売り手は少しでも高く売りたいと考えるため、買収価格は正味の企業価値である純資産を超えることが一般的です。この超過分は、対象企業のブランド力や将来性、人気などすべてひっくるめた総合的な魅力の大きさと言えます」

「『のれん』は買い手企業の無形固定資産として計上されます。会計用語としては珍しく平仮名で表記されるために目立ちます。買収企業が想定通りの利益を上げられなかったり、事業の前提が大きく狂ったりした場合、『のれん』すなわち総合的な事業の魅力が下がったと考え、帳簿上の金額を下げます。これに伴って損失も出ます」

「のれん」の減損処理は東芝以外の企業でも起きているのですか。

「企業が迅速に事業を拡大するためには、いちから自前で拠点をつくるよりも他の企業を買収するほうが近道です。最近では日本企業も米欧企業のようにM&A(合併・買収)に積極的になってきたため『のれん』は増加傾向にあります」

「日本経済新聞が集計したところ、昨年末の時点で日本の上場企業が持つ『のれん』は29兆円強でした。これは、おおよそ年間の純利益の総額に匹敵します」

「すべてのM&Aが当初の想定どおりに事が運ぶとは限りませんから、当然、損失の例も目立つようになりました。楽天は16年12月期に米動画配信関連事業などで243億円の減損損失を計上しました。セブン&アイ・ホールディングスは百貨店子会社ののれん価値などを引き下げ、17年2月期に減益を見込みます。キリンホールディングスはブラジルのビール子会社の減損などで15年12月期に初の最終赤字に転落しました」

東芝のような大きな問題が起きないようにするには何が必要ですか。

「M&Aの意義は買った後に試されます。手に入れた事業を生かすため、資金や人材などの面で追加の投資などが必要になります。また買う前に、本当にそれだけの価値があるのか、どのように使おうとしているのか、などをきちんと考えておくこともとても重要です」

「おしゃれな洋服を買っても着ていく場所がなければ、たんすの肥やしになるだけですよね? 手入れを怠っていれば、やがて生地が色あせ、虫食いになるかもしれませんよね? いずれにせよ洋服の価値は落ちていきます。企業買収にも似たところがあります。ポイントは、買ったからには大切に活用して価値を引き出すということです」

■ちょっとウンチク
日本と米欧、考え方に違い
多くの日本企業はM&Aを実施すると「のれん」を毎年、償却する。収益力など被買収企業の見えない資産価値は時間の経過とともに下がるという保守的な前提に立つからだ。これに対して米欧は見えない資産価値が著しく下がった時に初めて損失を計上する。米欧企業は見えない価値が経営努力によって維持できると考えるためだ。会計学者のなかには、そうした会計処理を「自己創設のれん」の資産計上と見なし、不健全と指摘する向きも少なくない。
国際会計の場では日本のように償却を義務づけてはどうかとの主張も聞かれる。しかしIT(情報技術)企業や通信業を中心に反対が根強く、時に政治を巻きこんだ駆け引きに発展する。
(編集委員 小平龍四郎)
■今回のニッキィ
松田 正子さん 医療機関勤務。最近、24時間いつでも利用できるスポーツクラブの会員になった。「利用料が安くて、着替えずに普段着のままでも運動できるので気楽に通えます
関 満子さん 生保勤務。1980年代に流行した洋楽アーティストのコンサートによく出かける。「中学生のころに聴いていた曲を再び聴くと、当時を思い出して懐かしく感じます」

[日本経済新聞夕刊2017年3月27日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は4月10日の予定です。

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