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メンタル不調、「ストレスチェック制度」で事前に防ぐ 義務化2年目

2017/3/23付 日本経済新聞 夕刊

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 企業などの事業者に従業員のメンタルヘルス対策の強化を促す「ストレスチェック制度」が義務化されて2年目に入った。昨年受検し「高ストレス」と判定された人もいるだろう。仕事の量や職場の人間関係など要因は人それぞれ。せっかくの「気付き」の機会を生かして、うつ病などの不調に陥る前にメンタルをコントロールしたい。

高ストレスと判定された人を面接指導する渡辺医師(東京都港区の赤坂診療所)

 「ひどい人事だと思いませんか。もう僕には無理です」。東京都港区の赤坂診療所。精神保健指定医・産業医の渡辺登所長に思い詰めた顔で訴えるのは、50代の男性だ。長く経理に携わっていたが、急に営業に回されリーダー役を任された。営業の経験や知識が豊富な部下をどうまとめたらいいかも悩みを深める。男性は高ストレスと判定され、自ら希望し渡辺氏による面接指導を受けた。

 メンタルヘルス事業を手がけるアドバンテッジリスクマネジメントが企業・団体に実施した調査によると、高ストレス判定の従業員の割合は「5%未満」が37.8%で、「5%以上10%未満」(27.7%)、「10%以上20%未満」(18.6%)と続く。従業員千人の職場なら50~100人の高ストレス者が出てもおかしくない。

 「高ストレス判定がすなわちメンタル不調ではなく、そういう判定でなくても不調の人は少なくない」(赤坂診療所の渡辺所長)。ただ、「ストレス状態にあるとの気付きを生かしてほしい」と指摘する。

 一般社団法人日本ストレスチェック協会の代表理事で産業医の武神健之氏は高ストレス者に共通してみられるストレスを大きく3つに分類する。「頑張るストレス」「ガス欠ストレス」「我慢のストレス」だ。

 頑張るストレスは優秀な人が抱えやすい。労働の量と質が急速に変化する中で、どうしても「できる人」に仕事が集中する。皆のためにと頑張り続けてもそれが認められていないと感じると、一気に気持ちが切れてしまうケースだ。ガス欠ストレスは仕事以外に趣味や熱中するものがないといった場合に見られる。

 武神氏が一番難しいと指摘するのが、3つ目の我慢のストレスだ。このストレスは「ノーと言えない人に生じやすい」という。自己肯定感が低い場合が多く、「断ってしまうと仕事がなくなるのではないかといった怖さから、我慢に我慢を重ねてしまう」。結果として心の健康を害するまでため込んでしまうのだ。

 メンタル不調で病気と診断されたら、専門医を受診し治療に入ることになる。会社は休職や配置転換といった就業上の措置をとる。その手前で防ぐにはセルフケアも欠かせない。

 武神氏はいくつかの「習慣」を勧める。1つが「構える」。「予想外のことが起きるからストレスになるので、最悪な事態も想定して(心の)扇を広げておくとよい」。また、適度に休んだり、旅行に出かけたりして緊張状態から抜け出す「区切る」も重要だ。

 選んで優先順位を決める「捨てる」もある。自分ではどうしようもないことを四六時中考えても仕方がない。「不満にばかり目がいきがちだが、不満はなくしてもゼロにしかならない。プラスである『満足』を増やさないといけない」

 「書く、話す、読む」も重要だという。「漠然としているから不安なので、書いたり話したりするとモヤモヤが晴れる」。実際、厚労省の労働安全衛生調査でも抱えているストレスについて誰かに相談すると9割の人が解消するか気が楽になったと回答している。

 産業カウンセラーで精神保健福祉士の田中啓子氏も「言葉に出すことで頭が整理され、ストレス軽減への効果が大きい」と話す。

 本人の言動などに気になる点が出てきたような場合は、家族や友人らが「最近何かあった?」と聞くだけで、メンタル不調の予防につながることもあるそうだ。

◇     ◇

■ストレスチェック制度 義務化2年目、なお課題

 厚生労働省によると、2015年度に過労などに伴う精神障害で労災認定の支給決定を受けた件数は472件。これでも氷山の一角との声も多い。こうした状況を踏まえ、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が15年12月に始まった。

 従業員50人以上の事業所には年1回のストレスチェックの実施が義務付けられている。アドバンテッジリスクマネジメントの調査では、高ストレス要因として医師による面接指導で指摘された項目は「仕事の量、労働時間など」が52.7%と最も多く、「上司との関係」(49.5%)や「仕事の内容(質)」(39.4%)と続く。

 ストレスチェックの結果は事業者に開示されないが、医師面接を受ける場合は本人の申し出が必要なので会社に伝わってしまう。このため、処置を必要としながら手を挙げない人が非常に多いことが課題となっている。

(井上孝之)

[日本経済新聞夕刊2017年3月23日付]

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