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逆風下 安心感際立つ

シャープの家電販売子会社、シャープエレクトロニクスマーケティング(大阪府八尾市)の太田尚美さん(49)は調理家電の営業の切り札だ。会話はゆっくり、話題は豊富に。経営不振の時期にも明るさを貫いて地域の販売店を味方につけた。2015年に担当した新製品の電気鍋では近畿地区の売上高が目標の2倍になり、出足の鈍さを取り返した。

太田さんは15年10月、太陽光パネルを営業するグループ会社から移った。11月に電気鍋「ホットクック」の発売を控え、「力を借りたい」とシャープエレクトロニクスマーケの近畿営業部隊の幹部に呼ばれた。

材料を入れれば放っておいても料理が完成する画期的な商品で、9月に発表したが、当初の価格は6万円前後。販売店は「こんなん高いし、売れへんわ」と受け止め、営業担当にも冷めた空気が漂っていた。

古巣の家電営業。自信があった。「お客さんは気に入ったものにはお金を出す」。「パパママショップ」と呼ばれる地域密着型の販売店を回った。

◇     ◇

16年1月、京都のある店に赴いた。「社長、ここに調味料を入れてください」。通常は太田さんが調理を実演するが、説明しながら店主にかぼちゃの煮付けを作ってもらった。

彼は料理をしない人。太田さんが作った方が早いが、商品の良さを実感してもらう方がいいと判断した。相手をよく見て売り方を考える。「わしがつくったんやで」。製品のファンとなった店主が来店客にかぼちゃの煮付けをふるまって率先して売ってくれた。気づくと1日で5台売れていた。当時の勢いだと1カ月はかかる数字だ。「売りたいというやる気スイッチを入れただけ」と話す。

「ゆっくり丁寧に」がスタイルだ。地域店の客は大半が年上。「お休みはどこに行かれたんですか」「趣味は何ですか」などと暮らしぶりに耳を傾けることから始めて距離を縮める。自宅で野菜を作っていると聞けば、「お野菜つくってはるんですか? 大根の煮物がすぐにできるんですよ」と自然に商品の紹介につなげる。売り急ぐと押しつけがましくなるうえにどうしても接客や実演が手抜きになり、「必ず相手に伝わる」と戒める。

相手に寄り添うすべは経験で培った。「量販店で接客を重ねるうちに『このタイプはこの話題から始めると話が弾むだろう』と何となく分かるようになった」という。

◇     ◇

接客で一番力を入れるのが笑顔。「笑顔を崩さずに目を見て話す」が鉄則だ。

ホットクックの発売直前、シャープは液晶パネルの販売不振で4~9月に836億円の最終赤字を計上した。訪れた販売店で「つぶれるんじゃ?」「アフターサービスはちゃんと受けられる?」などと不安を投げかけられることもあった。

笑顔で「大丈夫です」と答えていた。「アフターサービスは続くと考えていたし、自信がなさそうにしてはお客さんの不安をあおるだけ。明るく振る舞うしかない」と腹をくくった。

販売店や来店客に姿勢が伝わった。店には「何かあったら店で対応する」と励まされた。定期的に実演をする店では太田さんを気に入って友人を連れてくるリピート客もいる。実演は土日に開くことが多く、半年間に許可されている休日出勤の日数を3カ月で使い切ってしまったこともある。

ホットクックの営業で近畿から中・四国まで40店近くを回った。評判が広がって店に呼ばれるようになるうちに販売が伸び、半年で近畿での売上高が目標の2倍を超えた。

太田さんの仕事ぶりが認められ、会社は調理家電専門の販促担当を設けた。昨秋以降、首都圏、中部、九州に1人ずつ置かれ、近畿では4人が加わった。「チームで動けるようになったので手薄だった量販店にもアプローチしていく」。視線は次を見据えている。

(香月夏子)

 おおた・なおみ 1989年シャープ入社、地域販売店への販売促進支援や量販店での接客支援などを経て15年10月から現職。近畿・中四国地区で調理実演を通じた販促支援などを担当。兵庫県出身。
[日経産業新聞2017年3月22日付]

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