アートフェア、ホテルが舞台 客室ごとに作品飾る
美術館やギャラリーと違った魅力
ホテルのワンフロアを借り切って開くアートフェア(見本市)が、各地で広がりを見せている。客室に飾られたアート作品は、美術館やギャラリーの展示とはまた違った魅力を放つ。
東京・汐留のパークホテル東京で2月10日から3日間、26~27階の客室をアート作品が占拠した。「アート・イン・パークホテル東京2017」は国内外の約40のギャラリーが集結したアートフェア。部屋ごとに各ギャラリーが一押し作家の作品を展開した。
大阪市から出展したアートコートギャラリーの部屋をのぞくと、室内は作品で埋め尽くされていた。壁には高木智子と木村太陽の絵画やドローイングが所狭しと貼られ、ベッドの上まで覆っている。モニターでは木村の映像作品が流され、窓際やベッドサイドには山野千里の造形作品が並んでいた。
手の届く距離で
「自分の映像作品が個人の部屋でどのように鑑賞されるか。それを想像しながら作品を再編集した」と木村が言えば、「作品を購入した後、自宅にどう飾るかをイメージしてもらいやすいはず」と同ギャラリーの大場美和氏は言う。どの作品も手の届く距離でじっくり眺めていられる。美術館やギャラリーでの展示に比べ、作品がぐっと身近に感じられる。
次々と部屋を巡るのもホテルならではの楽しさ。デスク周辺やバスルーム、シャワースペースまで利用したり、窓から見える東京タワーを借景にしたり、ベッドを重ねて展示スペースを設けたりと、ホテルの客室らしい工夫が随所に見られた。
今回は昨年に続き2回目の開催。東京のホテルで現在も定期的に開かれる唯一のアートフェアだ。3日間で約1900人が来場し、大きなにぎわいを見せた。小山登美夫ギャラリー(東京・港)の小山登美夫氏は「作家や作品の新たな魅力を知ってもらえる。来年以降もぜひ参加したい」と話す。
ホテルで開くアートフェアは本来、見本市会場などの大きな空間をブースで区切って開く形式が主流だ。ホテルの客室を利用するのは2000年代から欧米や香港、台湾などで目立つようになり、日本でも年々広がりを見せている。
名古屋市では2月17日から3日間、「アートナゴヤ2017」がウェスティンナゴヤキャッスルの9階を借り切って開かれ、約30のギャラリーが参加した。ホテルすぐそばの名古屋城天守を借景にした展示が目立った。7回目の開催となる今回はフランスや韓国からもギャラリーが出展した。
他に、大阪市のホテルグランヴィア大阪で開かれるアート大阪、札幌市のクロスホテル札幌で開かれるアートフェア札幌、神戸市の神戸メリケンパークオリエンタルホテルで開かれる神戸アートマルシェなどが回を重ねている。
外資系がけん引
ホテルのアートフェアが日本でも一般的になってきた一因には、近年、外資系を中心にデザイン性の高いホテルが数多く開業したことが挙げられる。やはりアート作品を飾る以上、それにふさわしい場所が必要だ。
ホテル側のメリットも大きい。パークホテル東京は館内にアート作品を飾ったり、アート関連のイベントを開くなどアートをホテルの特色として積極的に活用してきた。同ホテルの総支配人、林義明氏は「通常営業の方が利益率は高いが、ホテルのイメージ向上に大いに役立つ」と話す。
今後、日本ではアート市場の成熟度も問われそうだ。アートフェアは作品の展示だけでなく購入の場でもある。香港や台湾と比べても、日本ではアート作品を日常的に購入する層が薄いといわれる。アートナゴヤ実行委員長を務めた熊崎益義氏は「アートに親しむ人たちの裾野をどれだけ広げられるか。それができないと、ホテルのアートフェアの盛況は一過性で終わってしまうかもしれない」とみている。
(大阪・文化担当 田村広済)
[日本経済新聞夕刊2017年3月13日付]
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