大人も欲しいランドセル 機能性、世界が注目
100年変わらぬ形
新入学のシーズンと言えばランドセルを背負った小学生が楽しそう。でもこのカバンは今や子どもだけのものではなくなっている。ファッションアイテムとして世界の女性の注目を集め、大人向けのランドセルも出回り始めた。
トレンチコートとブーツでさっそうと歩く背に、真っ赤なランドセルが光る。2014年、米女優のズーイー・デシャネルの私服姿の写真がクールだと、インターネットを通じ世界で評判になった。彼女は個性的なファッションリーダーとして注目を集める存在。米CNNニュースは「ランドセルは日本で買うべき土産になっている」と報じた。
ランドセル製造大手、セイバン(兵庫県たつの市)の直営店では外国人客の売り上げが20%を占める月がある。アジア系の訪日客が子ども用に買う一方で、欧米の客は自分用に購入していく。「底の金具で留められるのでスリ対策になる」「ノートパソコンを持ち運ぶのにぴったり」なのが評価のポイントだ。
ビジネスバッグとしても人気だ。土屋鞄製造所(東京・足立)は15年11月、「OTONA RANDSEL」を10万円で発売した。黒と茶の2色あり、革製のシャープなデザインを30~40代男性らが支持する。「ビジネスファッションがカジュアルになりつつあり、背負うバッグを使いたいという志向が高まっている」と同社の清野智子さん。
ナイロンのリュックではくだけすぎるが、革のランドセルならジャケットに合い、仕事の書類が折れ曲がらない。子どもを送迎するイクメンや東日本大震災後に自転車通勤が増えたのが背景にある。「両手を空けられて、ビジネスにもふさわしい」との需要がランドセルにたどりついた。
老舗メーカーの大峡製鞄(同)の大峡宏造専務に聞くと「中の物が乱れない、肩にかけて安定する形は子どもにも大人にも良い」と話す。同社は11年、東京芸大の学生らと大人向けのランドセル「リューク」(14万400円)を開発した。ミラノの百貨店から注文が入るなど海外でも人気だ。愛用する東京在住のカナダ人コンサルタント、イアン・マッカイさんは「質が良く、細部まで丁寧に作られている。モダンでクラシック。全く飽きない」と絶賛する。
大峡専務自身も出張の時に結構荷物が入り動きやすいためこのランドセルを使っているが、「片方の肩に背負っても腰で安定するので重さを感じない。手で提げてもビジネスマンの姿を邪魔せずこなれて見える」とアドバイスする。女性はきっちり両方の肩で背負うとかわいい印象になる。ベルトは長いとだらしなくなるので適正な長さで。
「100年以上たってもランドセルの形は変わっていない」と40年間、ランドセルを作り続けるセイバン生産本部の橋本雅敏さんはいう。四角い形でかぶせ蓋を底の金具で留める基本タイプを「学習院型ランドセル」と呼ぶ。
地方では「風呂敷が一般的だった」(橋本さん)。全国で普及するのは高度成長期の昭和30年代以降。特注品の革製ランドセルをセイバンが保管しているというので見に行った。野球や船の模様入り。B5のノートが入らないくらい小ぶりだ。本革製で、富裕層のものだったようだ。
人工皮革が登場すると軽くて安価なランドセルが一気に浸透した。2001年ごろからは黄色、水色、紫など多色展開が始まり、刺しゅうなどデザインが豊かに。選択肢は増えている。
11年に学習指導要領が改訂され、小学生の授業時間が増えた。教科書やA4のプリントをすっぽり入れられるよう、ランドセルは大型化している。防犯ブザーの取り付け金具付き、個人情報保護のため中の住所や名前が見づらいカバー付きなど子どもに便利な進化からも目が離せない。
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職人の手作業 300工程
技術が進化した今でも、ランドセルはほとんど手作業で作っている。「革は温度差によって伸びたり縮んだりするので、すべてを機械化するのは難しい」(セイバンの橋本さん)ためだ。同社では250ほどのパーツを使い、1つのランドセルを作り上げるまでに約300の工程を要するという=写真。
子ども用ランドセルメーカーとして創業した土屋鞄製造所も手作業だ。職人はランドセル作りから修業を始める。「箱型のランドセルはトートバッグなどの袋ものより工程が複雑。習得するのに数年はかかる」(清野さん)。ランドセルを作る技術が身につけば他のカバンにも応用が利く。高品質で使い勝手の良いランドセルを子どものものだけにしておくのは、もったいない。
(関優子)
[NIKKEIプラス1 2017年3月11日付]
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