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日本の財政、大丈夫? 政府の健全化目標、達成困難

2017/3/6付 日本経済新聞 夕刊

経済財政諮問会議であいさつする安倍首相(1月25日、首相官邸)

政府の財政健全化目標の達成が難しくなったらしいわね。最近は財政の活用でデフレから脱却しようなんていう議論もあるようだけど、日本の財政は大丈夫なのかな。

日本の財政について、林美帆子さん(29)と鈴木裕子さん(45)が瀬能繁編集委員の話を聞いた。

政府の財政健全化目標の達成が難しいそうですね。

「政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度に黒字にするという目標を掲げています。基礎的財政収支とは、社会保障費や公共事業費などの政策的経費と、税収との差額です。基礎的財政収支が黒字になれば、政策経費を税収の範囲で賄うことができ、新たな借金をせずに済みます。現在は政策経費が税収を上回る赤字なので、足りない分は新たに国債を発行して借金を増やし続けているのです」

「内閣府は1月25日、経済財政諮問会議で新たな中長期の財政試算を示しました。それによると、実質経済成長率2%という高成長が続いたと仮定しても、20年度の基礎的財政収支は8.3兆円の赤字が残ります。これは19年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げを織り込んだ数字です。従来の試算より赤字が膨らみ、政府目標は達成困難になったといえます」

「赤字を減らすには、歳出を減らすか、増税するか、もっと経済成長率を高めて税収を増やすか、3通りの方法しかありません。安倍晋三首相は20年度の基礎的財政収支の黒字化という旗はまだ降ろしていませんが、具体的にどうやって黒字にするかという方策も示していません」

なぜ従来の想定より赤字が膨らんでいるのですか。

「一つは、16年度に円高が進み、輸出企業などの利益が減り、法人税の税収が想定よりも少なくなる見通しのためです。個人消費も低迷しています。消費が増えて企業業績が向上し、働く人の所得も増えてさらに消費が増えるという循環がうまく回らず、所得税や消費税の税収も想定より減る事態になりました」

むしろデフレ脱却のために財政を積極活用すべきだという議論もあるそうですね。

「デフレ脱却のため、日銀は黒田東彦総裁が13年3月に就任してから大規模な金融緩和をずっと続けています。当初はうまくいったのですが、14年4月の消費税増税の影響や、新興国経済の低迷、原油価格の下落などによって物価上昇率は低水準が続いています。そこで最近、注目されているのが、ノーベル経済学賞受賞者のクリストファー・シムズ米プリンストン大学教授が提唱している『物価水準の財政理論』です」

「シムズ教授の主張は、単純にいえば『物価水準を決めるのは、金融政策ではなく財政政策だ』ということです。そして政府が『無責任』になり、財政再建のための増税や歳出削減はしない、と約束すれば、企業や個人が支出や投資を増やして物価は上昇する、というのです。ただし、物価目標が達成されれば、今度は物価が高くなりすぎないように、一転して緊縮財政に転じる必要があります」

「この理論は、安倍首相の経済政策ブレーンである浜田宏一・米エール大学名誉教授が支持を表明したことで注目されました。19年10月の消費税増税を予定通り実施するかどうかの判断を含め、政府の財政政策に影響を与える可能性もないとはいえません」

そんなうまい話があるのでしょうか。

「シムズ教授の理論は、政府に対して財政再建に責任を持つのでもなく、完全な無責任でもなく、『コントロールされた無責任になれ』と言っているわけです。そんなことは実際には難しいでしょう」

「もしもインフレを制御できずに年率数十%のハイパーインフレになれば、国民の痛みは極めて大きくなります。将来の財政破綻の可能性を考えた消費者は、逆に将来不安に駆られて、かえって消費を減らすかもしれません。『奇策』に頼るよりも、今から少しずつ皆が負担を分かち合うことで将来の財政破綻を防ぐことが重要でしょう」

■ちょっとウンチク
消費増税、三度目の正直?
クリストファー・シムズ教授の「物価水準の財政理論」が日本で注目されているのはなぜか。第1に、2013年以降に日銀が異次元の金融緩和政策を進めてきたにもかかわらず、消費者物価は低迷し、物価安定には金融政策だけでなく財政政策も重要との声が広がった。
第2に、19年10月に予定している消費増税の延期を支持する論者の理論武装に使われかねない点だ。安倍晋三政権は当初は15年10月に予定していた8%から10%への増税をこれまで2回延期した。20年度に基礎的財政収支を黒字にする目標の延期とセットで3度目の増税延期を表明するか。それとも「三度目の正直」で増税を決断するか。実質的な議論は始まりつつある。
(編集委員 瀬能繁)
■今回のニッキィ
林 美帆子さん マスコミ勤務。最近、写真撮影にハマっている。「ミラーレス一眼カメラを持ち歩き、日常の何気ない光景をスナップ撮影して、コンテストにも応募しています」
鈴木 裕子さん 大学図書館に派遣社員として勤務。最近、地域の小学生に卓球の指導を始めた。「子どもたちに体を動かして遊ぶことを学んでほしいと思っています」

[日本経済新聞夕刊2017年3月6日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は3月20日の予定です。

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