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がん対策道半ば 基本法施行10年、拠点病院に空白域 緩和ケアの人材も不足

2017/3/6付 日本経済新聞 朝刊

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全国どこでも標準的ながん治療を受けられる体制を目指した「がん対策基本法」の施行から4月で10年を迎える。法制化を機に拠点病院や相談支援窓口は整備されたが、苦痛を和らげる緩和ケアなど道半ばの取り組みもある。昨年末には、闘病しながらの就労といったこの間に浮上した課題を見据えた改正法が成立。「国民病」を取り巻く医療の充実へ努力が続く。

「要件を満たしていない疑いがある。拠点病院制度への信頼を損ねる恐れがある」。総務省行政評価局は昨年9月、報告書で是正措置を厚生労働省に求めた。診療体制向上のため整備された「がん診療連携拠点病院」の一部で、国が定めた必須要件を満たしていない疑いが複数あったためだ。

地域格差是正のため国が指定した拠点病院は全国に398ある。総務省はうち51病院を調査。緩和ケアが必要かどうか判定する「苦痛のスクリーニング」を外来で実施していない、緩和ケアチームに専従の専門看護師を置いていない……。問題は次々に見つかった。

質だけでなく、今なお残る「空白域」も課題だ。国は全国344ブロック(2次医療圏)ごとに「おおむね1カ所」の拠点病院整備をめざすが、1月時点で75圏で指定がない。同省は2014年1月から要件を一部緩和した「地域がん診療病院」を新設。空白を埋める「準」拠点病院の位置づけだ。近隣の拠点病院とグループを組み高度ながん診療につなげる役割が期待されるが、指定は28病院にとどまる。

■死亡率低下鈍く

国は基本法に基づき策定したがん対策推進基本計画で、がん患者の死亡率(75歳未満)について「15年までの10年間で20%減」を掲げた。しかし減少幅は15.6%と目標に届かなかった。専門家は予防と早期発見の遅れが原因とみる。

「この10年で肺がん死亡率の低下は鈍化した。原因の一つがたばこだ」。国立がん研究センターの片野田耕太・がん登録統計室長はこう分析する。

肺がんの死亡率は05年までの10年間では9.3%減ったが、15年までは7.3%減。喫煙率の低下ペースが落ち受動喫煙対策も遅れ、世界保健機関(WHO)は日本の対策を「世界でも最低レベル」と評する。

子宮頸(けい)がんは死亡率が悪化した。05年までの10年で3.4%増え、15年までは9.6%増に。検診受診率の低迷が理由とされる。厚労省の調査(13年)によると子宮がん検診の受診率は32.7%で、国が目標とする50%に遠い。大腸がんなどでも伸び悩みは目立つ。片野田室長は「検診で問題を指摘されながら、精密検査を受けない人がいるのも問題だ」と話す。

■標準治療は普及

基本法は緩和ケアの普及も目指すが、がん患者の3~4割は依然、身体的、精神的な苦痛が十分に緩和されていないとされる。厚労省は知識を持つスタッフ育成に取り組むが、拠点病院の医師でも研修受講率は昨年9月時点で約66%。9割の目標に到達していない。

全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「標準治療が全国に普及したのは大きな成果。行き場のない『がん難民』は間違いなく減った」と評価。その上で「病院間の格差が顕在化してきた。社会全体で患者を支えられるよう一層の取り組みが必要だ」と話す。

◇     ◇

■地域の格差 大きく改善

垣添忠生・国立がんセンター名誉総長の話

がん医療には「地域間」「施設間」「情報」の3つの格差があった。特に抗がん剤治療や緩和ケアなどで深刻だったが、拠点病院の整備で大幅に改善した。拠点病院の相談支援センターを通じ信頼できる情報が提供されるようになり、「がん難民」という言葉はあまり聞かなくなった。

ただ人材育成には時間がかかり、多くの病院が治療や緩和ケアに精通したスタッフ確保に苦労している。がんの5年生存率は6割を超え、生活全般の支援も必要になった。従来にない効果を持つが、極めて高価な新薬が次々と登場し、医療費が1人数千万円になるケースもある。保険制度を揺るがしかねず、薬効が高い患者に絞って使うなど対策を議論すべきだ。

◇     ◇

■患者の就労・育児、新たな課題

がん対策基本法成立の大きな原動力になったのは、適切な医療にたどり着けない患者の悲痛な声だった。

2000年ごろ、海外では普及する抗がん剤が国内は未承認で使えない「ドラッグラグ」が問題に。住む地域によって医療水準に格差があることも注目され、05年5月には全国の患者会が一堂に会し「がん患者大集会」を大阪市で開いた。法制化の機運が高まった。

議員立法で法案は提出されたが、与野党対立の中で廃案になりかけた。しかし06年5月、参院の代表質問で民主党(当時)の山本孝史議員が「私自身がん患者だ」と告白し、成立を後押し。設置されたがん対策推進協議会の委員に患者代表も加わり、5年ごとに閣議決定するがん対策推進基本計画などに患者の声を反映する仕組みができた。

新たな問題も浮上。生存率の改善で治療しながら働き、子を育てる患者は増えた。昨年12月成立の改正法は「患者が安心して暮らせる社会」を目標に、雇用継続への配慮を「企業の努力義務」と明記。小児がん患者の治療と教育の両立、難治性がんや希少がんの研究促進も盛り込まれた。同協議会は17年度以降の第3期基本計画を策定中で、改正法に沿って具体的な対策をまとめる見通しだ。

(倉辺洋介、辻征弥)

[日本経済新聞朝刊2017年3月6日付]

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