賃上げ 今年も続く? 労使交渉、ベア要求昨年並み

今年の春季労使交渉で、富士重工業の吉永泰之社長(左)に要求書を手渡す労働組合の山岸稔執行委員長(2月15日、東京都渋谷区)
今年の春季労使交渉で、富士重工業の吉永泰之社長(左)に要求書を手渡す労働組合の山岸稔執行委員長(2月15日、東京都渋谷区)

企業経営者と労働組合の春季労使交渉が始まったわね。安倍晋三首相は経営者に賃上げを求めているけど、私たちの給料は上がるのかな。

春季労使交渉について、徳山沙季さん(30)と水越亜季さん(31)が水野裕司編集委員に聞いた。

安倍晋三首相はなぜ経済界に賃上げを求めているのですか。

「日本経済がデフレから脱却するためには、個人消費が伸びることで企業の活動が活発になり、働く人の給料も上がり、さらに消費が伸びるという循環が必要です。しかし国内の実質消費支出は、昨年がうるう年だった影響を考慮すると1年4カ月連続でマイナスが続いています。賃金が上がらないと消費が増えず、経済が停滞してしまうのです」

「2016年の実質賃金は5年ぶりに前年より増えたとはいえ、0.7%増にとどまりました。安倍首相が経済界に対して『がんばって賃上げしてほしい』と要請し続けた結果、春の賃上げ率は14年から16年まで3年連続で2%を超えましたが、1990年代には3~5%台だった年もあったことを考えると、まだ低い伸びといえるでしょう」

今年の賃上げ交渉はどういう状況ですか。

「賃上げには『定期昇給(定昇)』と『ベースアップ(ベア)』の2種類があります。1年働くと勤続年数に応じて基本給が毎年上がるのが定昇です。一方のベアは、定昇によって毎年上がっていく賃金カーブ全体の水準を引き上げるものです。16年まで3年連続で2%超というのは定昇とベアを合わせた数字です」

「2000年代に入ってからは、日本全体でみると『ベアゼロ』の企業が多かった年も目立ちました。業績がよい企業はベアでなくボーナスで還元しましょうというのが経営側の基本的なスタンスでした。しかし、ベアがないと賃金の底上げを実感しにくく、消費の増加につながりにくいので、労働組合はベアを重視しています。連合の今年の賃上げ要求は『ベア2%程度を基準とし、定昇を含め4%程度』、傘下の自動車総連と電機連合はそれぞれ『ベア3000円以上』で、昨年の要求と同じです」

今年は「働き方改革」も話題になっているようですね。

「安倍政権が力を入れている働き方改革の大きな柱が、長時間労働を抑える残業規制と、仕事が同じであれば同じ額の賃金を支払うという『同一労働同一賃金』です。残業規制については、事実上、残業時間を無制限に延ばせる現在の仕組みを改め、法律で上限を定める方向で議論が進んでいます。実際に法規制が始まるのはまだ先の見通しですが、先取りする形で残業の抑制について労使で交渉を始めた企業も出てきています」

「残業規制で残業が減り、そのまま時間外手当が減ると、収入も減ってしまうという問題もあります。そこで、残業を減らした分はボーナスを増やして補う制度を設けようとしている企業もあります。収入を減らさないためにどうするか、今春の交渉だけで解決するのは難しいですが、労使の大きなテーマになっています」

「同一労働同一賃金についても、今春の労使交渉では契約社員のボーナスを正社員と同様に、『月給の何カ月分』と算定する方法をとるよう要求している労組があります。パート従業員も企業の重要な戦力になっています。非正規社員の処遇改善をめぐる労使交渉が活発になりそうです」

ほかにも注目点はありますか。

「大手企業の労使交渉は3月15日の集中回答日でほぼ決着しますが、中小企業の交渉は4月、5月と続きます。日本の労働者の7割弱は中小企業で働いており、日本経済にとって中小企業の賃上げは大変重要です。これまで中小企業の賃上げは大企業に比べて不十分でしたが、最近の労働力不足は追い風となるでしょう」

賃上げを進めるためには何が必要ですか。

「企業が賃金を上げるには、元手になる利益が必要です。そのためには生産性を高めなければなりません。日本の生産性は欧米諸国と比べ決して高いとはいえません。さらに重要なのは、社会保障改革です。少子高齢化が進み社会保険料の負担が増していますが、保険料は従業員本人だけでなく企業も負担しています。将来の保険料負担の増大への不安が和らげば、賃上げにお金を回しやすくなるでしょう」

■ちょっとウンチク
日本の生産性、20位に低迷
パート・契約社員の処遇改善や残業代が減る分をどう補うかなどの陰に隠れがちだが、生産性の向上策は企業の労使がもっと議論していいテーマだ。どれだけの付加価値を生み出すかという生産性が高まらなければ、正社員も非正規社員も、賃金引き上げの原資が確保できない理屈だからだ。
生産性を示す1人あたり名目国内総生産(GDP)をみると、日本は2015年に3万4522ドル。経済協力開発機構(OECD)加盟の35カ国中、20位だった。2000年の2位から順位を下げ続けている。
ドル換算した額は円安・ドル高では目減りする。だが、そうしたハンディを除いてみても、日本の1人あたり名目GDPはひところよりまだ低い。15年度は419.1万円で、1996年度(420.3万円)や97年度(422.8万円)を下回る。
生産性向上はM&A(合併・買収)をはじめ経営者の手腕によるところが大きいが、IT(情報技術)を駆使した業務効率化や能力開発の充実など、労使が知恵を出し合うべき部分も多いはずだ。
(編集委員 水野裕司)
■今回のニッキィ
徳山 沙季さん 金融機関勤務。大相撲が好きでよく観戦に出かける。「春場所は、日本出身力士として19年ぶりに横綱に昇進した稀勢の里の活躍に期待しています」
水越 亜季さん IT企業を休職して大学院に通い、今春、経営学修士(MBA)を取得予定。「大学院でほかの業界の人とたくさん知り合えたことも財産です」

[日本経済新聞夕刊2017年2月27日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は3月13日の予定です。

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