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超監視社会 ブルース・シュナイアー著ネット時代の社会規範を提起

2017/2/23

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ウェブの検索履歴、GPS(全地球測位システム)位置情報、メール、チャットやフェイスブック、オンライン決済、オンラインバンキング……私たちのスマホやパソコンから日々大量の個人データが生成している。ネット検索すれば履歴が残り、メールを送れば保管され、いいねボタンを押すだけで履歴が残り追跡され、個人が特定されるリスクがある。情報の氾濫する海を泳ぐ日々を送っている以上、プライバシーゼロの生活しかないのか。フィッシングやウイルスにさえ気をつけていれば、情報の洪水の匿名性のなかに隠れて暮らしていけるのか。

(池村千秋訳、草思社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は、世界的な暗号専門家でコンピュータ・セキュリティーの権威、NSA(アメリカ国家安全保障局)が「ぜったいに刊行させたくなかった」と評したベストセラー『暗号技術大全』の著者による警世の書である。政府や議会に助言を行う立場にいる人物だけに、月並みな監視社会批判ではない。無数の事実が克明に調べあげられて提示され、日本の読者にとっても有益で実用的な情報が満載である。

アル・ゴア元米副大統領は、「資本主義はストーカー経済になってしまった」と警告する。ネット時代がたどり着いたのは、巨大企業と国家による網羅的大量監視社会である。私たちが利用するシステムは、サービスの提供と引き換えに私たちを監視する。サービスが「無料で便利」なのは、私たちが顧客ではなくデータをせっせと生み出す商品だからだ。集められたデータは巨大企業によって売買される。

「安全安心」のためにはあらゆる個人情報を国家に差し出すべきなのか。しかし、テロ対策が国家による網羅的監視を可能にする口実にすぎず、セキュリティーをむしろ弱めることになるとしたら。2013年のスノーデンの告発はNSAが全世界でインターネット傍受を展開し、IT企業とも協力して網羅的にデータを収集し、同盟国を含む各国への諜報(ちょうほう)活動を展開していることを暴露した。もちろんアメリカだけに限らない。今回の米大統領選挙をみても、今日の世界でデータが戦略的に使われる危険は現実化してきている。わが国はデータブローカー企業が数億人分の個人情報を売買し、政府がコンピュータ機器に諜報活動のためのバックドアを要求するような国ではないとしても、私たちは、日常あまりにナイーブ、暢気(のんき)でありすぎないか。本書は超監視社会時代をむかえた国家・企業に対する改良のための提案、新たな社会規範を提起している。

(東京大学教授 石田 英敬)

[日本経済新聞朝刊2017年2月19日付]

超監視社会: 私たちのデータはどこまで見られているのか?

著者 : ブルース シュナイアー
出版 : 草思社
価格 : 2,160円 (税込み)

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