桜の季節の入学式、明治初期は9月が主流 英独手本に軍の4月徴兵、学校が対抗

NIKKEIプラス1

2017/2/24

暮らしの知恵

昨年の東大の入学式(東京都千代田区)
昨年の東大の入学式(東京都千代田区)

入学式といえば桜咲く4月。だが、学校制度が始まった明治初期からしばらくは、日本も欧米などと同じく9月の入学だった。

入学の歴史を遡ってみる。江戸時代は寺子屋、私塾、藩校などが学びの場で、いつでも入学を認めた。明治時代に西洋の教育制度にならって学制を敷いた。しばらくは随時入学が残っていたが、高等教育ではドイツや英国をお手本に9月入学が主流となる。1886年(明治19年)に発足した東京帝国大学(現東京大学)も学年は9月始まりだった。

9月入学を見直すきっかけになったのは徴兵令の改正だ。教育政策に詳しい国立教育政策研究所総括研究官の橋本昭彦さんに聞くと、86年12月に徴兵令が改正され、徴兵対象者(満20歳の男子)の届け出期日が9月1日から4月1日になった。これを受けて、教員養成のための高等教育機関、高等師範学校(筑波大学の前身)が初めて、4月入学制を採用した。これに尋常師範学校も続く。

師範学校側に「九月始期のままだと、壮健で学力がある人材が先に陸軍にとられてしまう」(佐藤秀夫「学校ことはじめ事典」)という危機感があったとみられる。同時期に国は会計年度を、それまでの7月~翌年6月から4月~翌年3月に切り替えたことも影響している。当時の師範学校は学費などを公費でまかなっていたため、「会計年度に合わせた方が事務的に都合がよかった」(橋本さん)。

「気候良いから」はただの後付け

つまり、生徒の学習環境などを考えたからなのではなく、「軍と役人の都合で4月に決められたことになる」(同書)。当時の政府官僚らが「気候が良く、木々が芽吹く春は、入学の時期としてぴったりだ」として決めたとする説もあるが、同書は「本州中央部太平洋岸の気象条件にもとづいてあとから付けられた理由にすぎない」と、はねつけている。

1900年(明治33年)には、小学校の学年を4月からとすることを明文化した。この後は、小学校、旧制中学校、師範学校などが4月入学、帝国大学や旧制高校は9月と、入学時期が2つに分かれた状態が続いた。

文部省の指導などがあり、19年(大正8年)、旧制高校が、21年(大正10年)には最後まで9月入学を堅持していた帝国大学が、それぞれ4月入学に移った。この年で日本の学校は完全に4月入学になったのだ。

現在は学校教育法施行規則で、幼稚園、小学校、中学校、高校は、いずれも学年が4月1日に始まり、3月31日に終わると定めている。

日本では当たり前の4月入学だが、世界を見渡すと、事情は違う。日本以外に、4月入学を採用している国・地域はほとんどない。

多くの国で新学年の開始は夏休み明け。米国、カナダなど北米、英国、フランス、ベルギーなど欧州、ロシア、中国などは9月から。北半球で季節が逆になるオーストラリアやニュージーランドは1月末からと、やはり夏休み明けだ。

夏休みが3~5月のタイは5月半ばから、フィリピンは6月から始まる。ただ、韓国は春休み明けの3月で、日本とほぼ同じ。

ランドセル商戦は1年前の春から

4月は、新入生が背負うランドセルがまぶしい。実はランドセルの歴史にも軍隊がかかわっている。幕末に西洋式の軍隊制度を取り入れた際、軍用の背嚢(はいのう)として導入されたのが始まり。学校では1887年(明治20年)に学習院初等科が初めて使い、一般に普及したのは1950年代半ば以降とされる。

かつては入学直前に選ぶ例も多かったが、年々、購入時期が早まる傾向にある。少子高齢化の影響で、両親だけでなく祖父母も資金を提供する「シックスポケット」が広がったことが背景にある。

ベネッセ教育情報サイトは昨年7月、小学校1年生と2017年春に小学校に入学する子どもを持つ保護者を対象にランドセルの購入(予定)時期を聞いた。最も多かったのは「入学前年度の10~12月」(28%)で、「同7~9月」(25%)が続いた。孫の帰省時に祖父母が購入するケースが多いとみられ、夏ごろにランドセルのテレビCMを見ることも多くなった。

さらに「同4~6月」(23%)も4分の1近い。「孫のために質の良いものを」と選ぶカスタムメードのランドセルなどは納品までに時間がかかるため、早めに購入しておきたいというわけだ。

高島屋は昨年よりも1カ月弱前倒して3月から、18年春の新入学向けランドセルの予約販売を始める。

記者のつぶやき

■映画「卒業」見て 米国の事情知る
 「へえー、米国の大学は9月入学なんだと」と知ったのは、映画「卒業」でだ。しかし、日本ではなぜ、4月入学なのかとは、考えもしなかった。桜の季節と入学式との相性が、あまりに良すぎるせいかもしれない。9月入学になったら、どうだろう。「入学式のとき、ちょうど台風が来て」なんて。どうも、しっくりこない。入学式はやっぱり、春が似合う。
(大橋正也)

[NIKKEIプラス1 2017年2月18日付]

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