がん患者に「第二の我が家」 NPO、ケア施設を開設
心配事、看護師らに相談
自分や家族ががんになったら――。2人に1人ががんにかかるといわれる今、こうした悩みが身近になっている。治癒率の向上や入院日数の短縮でがんを抱えながら家庭や職場で過ごす人も多い。先ごろNPO法人マギーズ東京が「自分を取り戻す居場所」を掲げて施設を開設。病院でも相談支援に力を入れ始めた。
東京のゆりかもめ「市場前」駅から歩いて3分。東京湾に面した空き地の一画に木造のおしゃれな建物が立っている。昨年10月にオープンしたマギーズ東京だ。大きな窓からは日差しが降り注ぎ、室内にはゆったりしたソファや大きなテーブルが置かれている。
長く訪問看護に携わり、マギーズ東京のセンター長を務める秋山正子さんは「家と病院の中間にある場所。患者や家族が自分を取り戻し、これからの生き方を考える第二の我が家を目指す」と話す。
マギーズセンターの発祥は英国。がんを患った造園家の女性が、生きる希望を育む場所をつくりたいと考えた。1996年に第1号が誕生。彼女自身は完成を見ずに他界したが遺志は受け継がれ、英国内だけでなく海外にも広がっている。
施設は寄付で運営され、利用は無料だ。予約もいらない。看護師と話したり臨床心理士、栄養士に相談したり。黙ってお茶を飲み、本を読むだけでもいい。患者や家族など月に約300人が訪れる。
「がんをきっかけに人間関係がぎくしゃくし、孤立感を募らせる人は多い。どう暮らせばいいのか、妊娠はできるのか。心配や愚痴を聞き、前に進む背中を押してあげたい」と秋山さん。
各地のがん診療拠点病院でも、患者や家族の支援に力を入れ始めている。千葉県柏市の国立がん研究センター東病院は、3年前に相談支援体制を強化。それまでのソーシャルワーカーに加えて医師や看護師、薬剤師、管理栄養士など多職種が連携したサポーティブケアセンターを立ち上げた。
「患者の療養生活をあらゆる側面から支援する」(坂本はと恵副センター長)。地域や企業の協力も得て、社会保険労務士による相談、化粧品会社のカバーメーク教室なども行っている。
どの段階でどんな支援が必要かの研究もする。昨年は千葉県と組み、企業が医療者に何を望んでいるかアンケートを実施した。1位は「当面の治療期間や通院頻度を知りたい」だった。
これらをもとにリーフレット「がんと診断されても、すぐに仕事を辞めないで!」を作成し配布を始めた。坂本さんは「がんと言われたらすぐに仕事を辞める人が多いが、それでは生活設計が難しい」と強調する。
東京都のがん研有明病院も支援に力を入れる。玄関を入ると、右手にがん相談支援センターの看板、相談ブースがずらりと並ぶ。奥には本や冊子を置いた情報コーナー。「何かお困りの際には、がん相談支援センターに」の案内がある。
緩和ケアセンタージェネラルマネージャーの浜口恵子さんによれば、専任のソーシャルワーカー1人、専門看護師4人、兼任の医療ソーシャルワーカー7人が相談にあたる。相談件数は昨年で約5000件。
花出正美看護師長は「患者、家族は忙しい医師や看護師に遠慮して聞きたいことも聞けないでいる。主治医への相談の仕方、信頼関係の作り方をアドバイスすることが多い」と話す。
「幼い子どもに話すべきか」「夫に『親に心配させたくないから話すな』と言われたが本当にそれでいいのか」。こうした悩みも寄せられる。「医療は急速に進歩したが、心や生活への支援はこれから」(秋山さん)だ。
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拠点病院にも相談窓口
厚生労働省は地域がん診療連携拠点病院の指定要件として院内に「がん相談支援センター」を設置することを義務付けている。現在、全国に399ある拠点病院は専従のスタッフを置き、患者や家族、地域住民の相談を受けている。だが周知は不十分なうえ、病院によって内容にも差がある。
医療の進歩で治療しながら働く人が増え、就労への関心も高まっている。昨年10月に内閣府が働き方改革の一環として「治療と仕事の両立」を発表、国が策定するがん対策基本計画でも就労が重点課題になっている。厚労省がん・疾病対策課の小野由布子相談支援専門官は「まず相談窓口を知ってほしい。また一度離職すると再就職は難しい。不本意な離職は避けたい」と話す。
(ライター 岩田 三代)
[日本経済新聞夕刊2017年2月16日付]
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