永谷園のおまけ五拾三次カード 20年ぶりに食卓に登場
大名行列が暁の江戸を出立する「日本橋 朝之景」。急峻(きゅうしゅん)な山々が待ち受ける難所の「箱根 湖水図」。しんしんと降る雪中を蓑笠(みのがさ)姿の旅人がゆく「蒲原 夜之雪」。強い風雨に逆らって駕籠(かご)かきが駆ける「庄野 白雨」……。歌川広重の「東海道五拾三次」には、日本人の心に染み込んだ風景がいくつもある。
本物はもちろん画集でも見たことがないのに、なぜか絵は知っているという人も多いはず。もしかしたらそれは、永谷園のお茶づけに付いていたカードの記憶ではないだろうか。
同社が昨年11月、この五拾三次を印刷したおまけのカードを約20年ぶりに復活した。「お茶づけ海苔」など主力商品にもれなく1枚つく。もちろん「集めて当たるフルセット」も復活。応募マーク3枚1口を送ると毎月1000人に全55種類のカードセットが当たる。「応募した」「当たって友達に自慢した」と懐かしく思い出す世代も多かろう。
同社が自社商品に五拾三次カードを入れたのは半世紀以上前の1965年。もともと封入していた検印紙が無地で味気なかったため、「せっかく入れるなら文化発信の一助に」と裏面を活用したのが始まりだ。
種類は徐々に増え、「喜多川歌麿」「東洲斎写楽」「富嶽三十六景」「ルノワール」「ゴッホ・ゴーギャン」「竹久夢二」「日本の祭」など全10種類のシリーズを発行。中でも「五拾三次」は最も応募数の多い人気シリーズだった。
これらの名画カードは、惜しまれつつ終了した97年までの約30年間、日本中の食卓にのった。累計発行枚数は多すぎて「把握できないほど」(広報部)らしい。プレゼント応募総数が約500万口もあったというから、その人気のほどがうかがえる。11月の復活後も応募数は増加中で「懐かしい」「集めたい」との声が多数届いているそうだ。
ネットなどで気軽に情報や画像が見られる現代と違って、半世紀前にはこうした名画に触れる機会はずっと少なかった。創業者はじめ同社の「日本の素晴らしい文化を身近に感じてもらう機会を創りたい」との思いから生まれたこのカード。潜在的な美術ファンを育てた意味でも、文化への貢献度は想像以上に大きいのではないだろうか。
(律)
[日本経済新聞夕刊2017年2月15日付]
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