1年ほど前にはこんなこともあった。中年男性がノースフェースのサイトを印刷した紙の束を手に来店した。「見に来ただけだよ」と言いながらパーカーやスポーツタイツなどの疑問を次々にぶつけてきた。

藤田さんはキッパリと答えた。「この商品は必要ありません」「今持っているアイテムで代用できます」。安易に売ろうとせずに商品の知識をもとに指摘すると、「君は面白いな。気が変わったから少し待ってて」と男性客。現金を下ろして再度来店し、140点ほどをまとめて購入した。1日の売上高の半分以上で、1度の購入額では全店で過去最高だ。

ネットで簡単に商品を買える時代でも「この人のオススメだから」という安心感は代用できない――。「信頼を大事にしたい」と言う藤田さんには商品を信頼するようになったいきさつがある。

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板前を辞め、2009年3月から10年12月にかけて世界一周の旅に出た。マイナス30度に達する南米や北欧の山も訪れた。吐く息も凍る環境で身を守ってくれたのがノースフェースのアンダーウエアやフリースだ。「信頼する商品を広める仕事がしたい」。帰国後の11年、ゴールドウインに入社した。

原宿店には1日に最大200人が訪れる。価格と機能がともに高い商品が多く、来店客が店員に求めるハードルも高い。藤田さんは店内の全商品の知識を頭に詰め込んでいる。すべての疑問に答えられるように、アウトドアや競技についての勉強も欠かさない。