90周年の宝塚レビュー、動員過去最高、海外開拓にも力
きらびやかな衣装に身を包んだスターたちが華麗に歌い、踊る。宝塚歌劇団の象徴ともいえるレビューが初めて上演されてから今年は90周年の節目。上演中の舞台からその魅力を探った。
舞台にはフランス・パリの回転木馬(カルーセル)がたたずみ、幻想的な雰囲気に客席の期待が高まる。宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)でのお披露目公演となる月組の新トップスター、珠城(たまき)りょうが白馬の王子の姿で登場すると大きな歓声が上がった。
現在、正月公演として上演されているのが、レビュー90周年を記念する舞台「カルーセル輪舞曲(ロンド)」。白を基調とした衣装や舞台装置にはラインストーンやスパンコールなどきらきらした装飾がほどこされ、照明をうけてまばゆいばかりに輝く。心躍る華やかなオープニングだ。
世界の文化表現
「カルーセル輪舞曲」はパリを出発し、大西洋から米国のニューヨーク、メキシコ、ブラジルを巡り、シルクロード、インド洋を経て日本の宝塚にたどり着くまでを描く。日本初のレビュー「モン・パリ」が日本からパリへの旅をつづったことに倣い、場面ごとに世界各地の文化を歌や踊りで表現する。演出の稲葉太地は「欧米に学んだものが宝塚歌劇にしっかりと根付いたことへの感謝を描いた」と狙いを明かす。
「モン・パリ」が初演されたのは1927年9月。金融恐慌による不景気で、劇場の観客数に陰りが出ていた頃だ。創設者の小林一三は演出家の岸田辰彌を欧米への視察旅行に派遣し、大劇場にふさわしい出し物の創作を命じた。そこで岸田が目を付けたのが、欧米で流行していたレビューだった。
レビューはフランス語で「批評・調査」を意味する。演劇用語としては、その年の出来事を風刺的に描く歌や踊りの公演のことを指す。「モン・パリ」では神戸港を出港した主人公が中国、インド、エジプトを経てパリに着くまでを描いた。岸田自身の経験を作品に取り入れ、上海でスパイに間違われて追われる場面などがあったという。
スピーディーな場面転換で、幕あいなしに全16場の場面が次々に展開する。その舞台は、それまでの軽演劇中心の公演とは全く異なるものだった。
驚くのは、今や宝塚のレビューに欠かせない要素となったラインダンスや大階段がすでに採用されていることだ。ラインダンスは、現在のような女性が足を上げて踊るものではないが、1列に並んだダンサーが同じ動作で踊る。稲葉は「どちらもスペクタキュラー(壮観)で、横に広い宝塚大劇場に合っている」と指摘する。
個性を生かせる
「モン・パリ」は観客の評判も高く、初めてのロングラン公演になった。その後、岸田の後を継いだ白井鐵造が「パリゼット」(30年)「花詩集」(33年)などの名作レビューを世に出し、60年初演の高木史朗作・演出「華麗なる千拍子」では芸術祭賞を受賞。「レビューは宝塚歌劇の代名詞」といわれるまでになる。
最近はレビューなしで「1本もの」と呼ばれる大作ミュージカルを上演することもあり、正月公演で同時上演中のブロードウェーミュージカル「グランドホテル」のような作品に話題が集中しがちだ。だが、小川友次理事長は「ミュージカルや芝居も大切だが、スターの個性をより生かせるレビューを大事にしたい」とその必要性を説く。
実際、「カルーセル輪舞曲」では「珠城のはつらつとした若さや力強さ、優しさなどの魅力をそれぞれの場面で表現した」(稲葉)。陽気なブラジルのサンバやロマンチックなデュエットダンスなどで珠城はさまざまな表情を見せていた。
宝塚歌劇の2016年の観客動員数は270万人超で、過去最高を更新した。今後は海外市場の開拓にも力を入れる方針で、レビューはその鍵を握る要素の1つ。「ロマンチック・レビュー」など数々の名レビューを手掛けた演出家の岡田敬二は「(芝居に比べ)言葉が分からなくても楽しめるレビューを東南アジアなど海外の観客にもっと知ってほしい」と話す。
フランスで花開き、日本の宝塚歌劇で独自の進化を遂げたレビューが、新たな観客と出合うことでどのように発展するか楽しみだ。(大阪・文化担当 小国由美子)
[日本経済新聞夕刊2017年1月23日付]
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