ファッション展が絵画や映像とコラボ 時代の息吹宿す
近年、開催が相次ぐ美術館でのファッション展。映像を駆使したり、マネキンにこだわったり。あの手この手の工夫を施すことで、作り手の個性や思い、時代感覚を伝えようとしている。
「たかがファッションデザインで成功したみたいな野郎が絵を描くなんておこがましいぞ、と専門の方から言われるのを十分覚悟しております」
冗談まじりにそうあいさつするのは、ヨウジヤマモトのブランドで世界的に知られるファッションデザイナー山本耀司。自身が企画した絵画と服飾のコラボ展「画と機 山本耀司・朝倉優佳」(東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで3月12日まで)のお披露目時のひとコマだ。反骨で鳴らしたこの道40年以上のベテランだけに、殊勝な言葉も額面通りには受け取れない。
音で場末感演出
大胆な色、走るような筆遣いでキャンバスやガラスに描いた絵画と新作コレクションを含むファッションとが存在を主張しあう。「普通のマネキンに着せると自分の服はかえって汚く見える」と、同展のために針金や流木であつらえた異形のマネキンたち。愛犬の鳴き声やくしゃみの音などを流し、場末感を漂わせる。空間におとなしく収まろうとしない攻撃的な展示がクリエーターとしての自信を示している。
同ギャラリーの堀元彰チーフ・キュレーターは「新しい素材や生地からどういうコンセプトで形を引き出すかがファッションデザインの仕事。スタイルに縛られないそんなやり方が展示にも生きている」と語る。
日本服飾文化振興財団は昨年暮れ、所有するイヴ・サンローランのビンテージコレクションを活用した「Mon YVES SAINT LAURENT」(東京・銀座のポーラミュージアムアネックス)を開催した。テーマは映像を駆使した「ヴァーチャル・ファッションショー」だ。
約180体分あるコレクションから67体分を選び、当時のオリジナルと現代風に分けてコーディネート。それを実際のトップモデルに着させた疑似ファッションショーの映像を撮影した。会場に設置した大小10枚のモニターで流すと、それまでマネキンや写真パネルで見ていた服が命を宿したように見えてくる。
同財団の鶴田雅之事務局長は「映像はファッション史の一部を彩る貴重なアイテムをさらに素晴らしい形で見てもらうためのもの。実物、写真とあわせた3つの演出で素材感や時代感、実物感を味わってもらう仕掛け」と説明する。
個性際立たせる
デザイン大国フィンランドを代表するブランドの60年超の歴史を紹介する「マリメッコ展」(東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで2月12日まで)は、マリメッコ社の歴史を彩ってきたデザイナーたち一人ひとりの個性に焦点を当てる構成。ドレスや製品になる前のファブリック(布)を大きく壁に張り出した展示が印象的で、シンプルかつ大胆なデザインの力を際立たせている。
4月には京都服飾文化研究財団が持つ明治期のドレスと服飾品を中心とした「ファッションとアート 麗しき東西交流」展が横浜美術館で開かれる。奇をてらわず、時代によって異なる人の体格に合わせた独自のマネキンを用意。同財団の周防珠実キュレーターは「サイズ感の合わない現代のマネキンは使わず、理想のシルエットを追求して時代感を再現したい」と語る。
服飾品はさまざまな見せ方ができるだけに工夫のしがいもある。それが美術館での展示のあり方を変える可能性を秘めている。「学芸員はまだまだ展示に不慣れだが、見せる側のリテラシーも高めていく必要がある」(堀氏)だろう。
(文化部 富田律之)
[日本経済新聞夕刊2017年1月17日付]
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