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 報告書の提出を忘れていた、書類で誤字脱字を見落としたなど日々の仕事には細かいミスがつきものだ。ミスをすれば自己嫌悪にも陥るし、一つひとつは小さくても積み重なれば周囲からの信頼も下がる。正月のおとそ気分も抜けた今、うっかりミスは許されない。個人レベルでのミス防止の技を専門家に聞いてみた。

「忘れたころにやってしまうのが添付ファイルの添付忘れ」と話すのは、事務職の40代女性だ。大事に至ったことはないが「何年仕事しているのやら」と反省する。

このミスは、インターネットでメッセージをやりとりする人全員に頻発しているといっていい。「本文を入力し終わってほっとして送信ボタンを押してしまうのが原因」と話すのは、ビジネス研修を手掛けるヴィタミンM(横浜市)社長の鈴木真理子さんだ。対策は「本文入力前にファイルを添付すればいい」と単純。さらに「署名やテンプレートに『ファイル、添付した?』と赤字で自分あて警告メモを付け加えれば確実」と話す。送付前にこのメモを削除するのは言うまでもない。

すぐメモを習慣に

ヴィタミンMの鈴木真理子社長は出先でもできるだけ早くメモに残す

ヴィタミンMの鈴木真理子社長は出先でもできるだけ早くメモに残す

一方「ど忘れミス」対策の王道はメモの活用だ。鈴木さんも「ミスを減らしたいならメモを習慣に」と断言する。「人は20分後には覚えた事の42%、一日後には74%を忘れているという実験結果がある。『この程度なら覚えられる』という油断や過信がミスにつながるので、100%覚えているタイミングでメモに残して」。鈴木さんは研修を実施中でも資料の修正点や改善点に気付いたら、とりあえず付せんやペンで印をつけできるだけ時間をあけずメモに書き出すとのこと。帰社後、原本の修正も基本はその日のうちにだ。

一方、チェックリストを使っての見直しもミス対策に欠かせない。企業研修を手掛けるインソースの大島浩之取締役は「チェックリストは人の記憶に頼らず、項目に沿って漏れなく作業するのに有効なツール」と指摘。その上で「リスト活用には押さえるべきポイントがある」と続ける。

まず、チェック項目は減らす方向で考える。多くても20以内にし、重要度によって優先順位を付ける。すべてが同列に並んでいると重要事項で漏れが起き、重大事故につながる恐れが高くなるからだ。誰かが見ているとの甘えを避けるため、チェックする人に責任を持たせることも必要だ。「担当者のスキルレベルに応じて確認項目を分担するなどチェックの実効を高める工夫も大切」という。

メモやチェックリストはビジネスをする上で基本中の基本。しかし、なぜそれらがミス対策に有意義なのか説明できればより納得して実践できそうだ。

ミスしやすい脳

「ミスは記憶力や注意力などが乏しいから起こるのではない。そもそも人間の脳がミスを起こしやすいつくりになっている」と話すのは「仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方」の著書を持つ学習コンサルタントの宇都出雅巳さん。「覚えていると思っても覚えてない、見ていると思っても見ていない。脳は想像以上にいい加減。主原因はワーキングメモリという記憶にある」と宇都出さん。

このメモリは容量が小さい上すぐに内容が書き換わり、瞬間的に覚えたと思っても、他に注意が向くとすぐ忘れる性質があるという。さらに容量増も難しい。カギは限られたメモリをいかに効率的に使うか。その際メモやチェックリストが記憶の補助ツールとしてメモリの負荷を下げるのに有効というわけだ。

「チェックリストなど原始的と思うかもしれないがどんな仕事でも非常に有効」と宇都出さんは強調する。「確かに経験を積むと『ここはミスしやすい』など注意を割くべき点がわかるようになるが、毎回記憶に頼るのは非効率だし、思い出すという行為自体がメモリを圧迫する。一度リストを作れば、以降はそこに頭を使う必要がなくなり、その分仕事効率は上がる」

さらに宇都出さんは「どうしたら忘れなくなるかではなく、どうすれば忘れっぽく見落としやすい自分をカバーできるか。この発想の転換からミス対策を考えてみるとよい」とアドバイスしていた。

(ライター 村樫 裕理子)

[日本経済新聞夕刊2017年1月16日付]

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