夜中に何度も目覚める 睡眠障害? 早めに受診を
無呼吸症候群などにも注意
一晩に何回も起きてしまうため、いつも寝不足のような気がする。夜中に目が覚め不安に襲われる。睡眠障害の中で最も多いのがこうした中途覚醒だ。最近、中途覚醒に効果のある新薬も登場したが、専門家は薬物治療だけでなく、患者自身による睡眠習慣の改善が重要だとアドバイスする。
睡眠障害には、なかなか寝付けない入眠障害、途中で起きてしまう中途覚醒、朝早く目覚めてしまう早朝覚醒の3つがある。最も悩む人が多いのが中途覚醒。しかも中高年以降増えることが分かっている。
覚醒中枢が関係
日本大学板橋病院精神神経科の内山真主任教授らが約2500人を調べたところ、60歳以上の男性の23.1%、同女性の19.9%に中途覚醒が見られたという。
どうして眠っている人が突然、起きてしまうのだろうか。脳にある目を覚ます仕組みの覚醒中枢が関係している。「実は睡眠時も覚醒中枢は働き続け、地震などで逃げないといけない場合などに備えている」と内山主任教授。普段は一般的な眠りは妨げないが「不規則な生活が続いたり、精神的ストレスがたまったりすると、働き方に異常が起きて中途覚醒をもたらすようになる」(同)。
病気が原因で中途覚醒が起きることもある。重い中途覚醒のある人に、睡眠中に大きないびきをかき、呼吸が何回も止まる睡眠時無呼吸症候群が見つかることもある。呼吸を補助する機器を使うなどで中途覚醒が大幅に改善できることも多い。このほか、睡眠中に手足がピクッと動く周期性四肢運動障害という病気のこともある。
また、中高年に多い夜間頻尿も中途覚醒と大きく関連している。日本大学板橋病院泌尿器科の高橋悟主任教授は国内の夜間頻尿患者について年齢・性別ごとに調査した。「50代の男女の6割以上が夜中1回以上トイレに起きていることが分かった」と話す。
夜間頻尿は加齢現象の一つ。夜起きる回数が2回、3回と増えると睡眠が質・量ともに悪化する。治療するには「頻尿で尿意があるから起きてしまうのか。中途覚醒で起きるから尿意を感じるのか」、どちらが主な原因なのかを突き止めることから始める。
まず昼も夜も頻尿なのかどうかを確認。昼も頻尿なら前立腺肥大症、過活動ぼうこうといった病気の可能性があるので泌尿器科で治療する。
一方、夜だけ頻尿となる夜間多尿の場合、生活改善で症状が良くなることも多い。様々な理由で夜間に作られる尿の量が増える。例えば、脚がむくみやすい人は昼間に下肢にたまった水分が夜間に腎臓に戻るため、睡眠時の尿量が増える。
こういった場合は、定期的に運動をするなどで脚のむくみをとるほか、夜の飲食は就寝3時間前までにすませるようにすると良い。夕食後落ち着いたら、ゆっくりと入浴することも有効だ。
早く寝過ぎない
こうしたケアをしても中途覚醒が治らない場合はどうしたらいいのだろう。内山主任教授は「中途覚醒やその他の睡眠障害の治療は、睡眠薬など薬だけではなく、患者の睡眠習慣の改善と合わせることが大切だ」と話す。睡眠薬も飲めばすぐ眠れるほど強力なものではないので、薬だけに頼らない「眠れる習慣」づくりが欠かせないという。
内山主任教授が注目するのは1日の睡眠時間(量)。健康を維持するためには十分に長い睡眠時間が必要だと考え、できるだけ睡眠がとれるように早く「床」に入ろうとしがち。「実はこの行動が中途覚醒の原因の一つになっている可能性がある」(内山主任教授)
例えば、8時間睡眠が健康的だと考えている人は多いが、米国での睡眠時間と6年後の死亡率との関連を調べた研究では、6年後の死亡率がもっとも低かったのは7時間睡眠だった。内山主任教授は「研究結果から考えても、1日6時間半から7時間眠ることができれば健康的といえる」という。
ところが実際は、睡眠障害を持つ中高年の人は床に入っている時間がそれ以上に長くなりがち。6時間半で睡眠が足りる人が無理に8時間床に入っていれば、1時間半は中途覚醒として起きてしまいかねない。
内山主任教授は「大切なのは必要な睡眠を必要な分だけとること。何が何でも8時間寝ないといけないという睡眠習慣に対する考えを変えるだけで中途覚醒が改善することは意外と多い」と説明する。
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たかぶった脳を鎮める新薬登場
睡眠障害に使われる睡眠薬には、作用時間の長いものと短いものがあり、症状に応じて使い分ける。入眠障害の人なら作用時間が短いものを、中途覚醒の場合は、朝まで効果を持続させたいので長めのものを選ぶ。
作用が長い睡眠薬として新たに登場したのがベルソムラ錠(一般名はスボレキサント)。オレキシン受容体拮抗薬というタイプの医薬品で、過剰にたかぶった脳の覚醒中枢を鎮めてくれる。
内山主任教授は「覚醒中枢が過剰に働いている人は多く、睡眠を改善する医薬品として期待されている」と話す。医師の処方が必要な薬だ。精神科や睡眠外来などで相談してみよう。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEIプラス1 2017年1月14日付]
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