お祈りメール来た、日本死ね 海老原嗣生著新卒一括採用と雇用システム

不景気になると「学生が就職できない」と騒ぎ、景気が上向きになれば「学生が採れない」と騒ぐ。思えばこの100年、日本はいつだって就活で大騒ぎしてきた。とはいえ、学生にとって就職が人生の一大事で、人材の採用が企業にとって重要な経営活動であることを考えれば、これはある意味で当然のことなのかもしれない。問題は、その度に行われる議論の中身だ。

(文春新書・820円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

この種の議論はきまって、「学校卒業時期に限定せず、企業への入り口を広くとるべきだ」とか「企業の選考活動は◯◯月にすべきだ」といった採用時期論、「日本企業の採用基準は曖昧でダメだ」という日本型批判論。そして、「それに比べて欧米企業では、職種別採用を行っていて採用基準が明確だ」「欧米企業を見習うべきだ」という欧米型礼賛論といった角度から行われる。

著者が指摘するのは、こうした議論の危うさである。日本企業の採用には、確かに上記のような特徴があるけれども、それは日本の特殊な雇用システムと切り離して理解することができない。強い人事権をもった人事部によって、社内の欠員を組織内の異動によって補充する定期異動システム、多様な職務・勤務地で働くことを社員に要求する無限定雇用。日本型の新卒一括採用は、こういったさまざまな雇用システムを補完し、またそれらによって支えられることで成立してきた、一種の合理的なシステムだからだ。

経済を支える複数のシステムは、相互に矛盾なく補完的に設計される必要があるという考え方を、経済学では「制度的補完性」と呼ぶ。日本企業の採用の問題もまた、この制度的補完性の点から議論されなければならないのだ。それは同時に、安易な欧米型礼賛や表面的な模倣の中に日本の課題の処方箋はない、ということでもある。こうした立場に立って、日本型の新卒一括採用の問題を、冷静に、鋭く分析したのが本書なのである。

日本の企業は、大学は、そして社会は、いったいどうすればよいのか。その具体的なビジョンをも、本書は提示している。問題の本質が制度的補完性にあるだけに、解決は決して容易ではない。一個人や一人事担当者にとっては、途方もなく大きな問題に思えるかもしれない。しかし、本書の指摘を真剣に受け止め、問題の本質を見極めながら進む一人ひとりの行動の集積こそが、日本の採用・就職を変えていくのだと評者は信じている。「日本死ね」という強烈なタイトルであるが、中身は極めて硬派で、情報ゆたかな一冊である。

(横浜国立大学准教授 服部 泰宏)

[日本経済新聞朝刊2017年1月8日付]

お祈りメール来た、日本死ね 「日本型新卒一括採用」を考える (文春新書)

著者 : 海老原 嗣生
出版 : 文藝春秋
価格 : 886円 (税込み)