卵アレルギー、食べて予防 少量を乳児から
研究で効果確認 避けるより慣れて
「アレルギーの原因になる食品を食べ始める時期を遅らせた方がよいという考えは、はっきり否定されたと思う」。国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長は、こう強調する。
大矢医長らのグループは、ある実験を試みた。生後アトピー性皮膚炎を発症し、食物アレルギーを起こしやすいとみられる乳児121人を2グループに分け、一方には生後6カ月から加熱した卵の粉末を少しずつ与え、他方には卵ではなく見かけがそっくりなカボチャの粉末を食べさせた。
最初の3カ月間は1日50ミリグラムとごく少量で、その後250ミリグラムに増やした。結果が出るまで、医師も保護者もだれが卵を食べ、だれがカボチャを食べているのかわからない「二重盲検」と呼ばれる方式を用いた。効果の判断に予断が入らないため、最も信頼性が高い方式とされている。
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1歳になるまで追跡したところ、卵アレルギーを発症したのは、卵を食べなかったグループで38%。一方、食べたグループでは8%にとどまった。保護者が医師の指示通りの方法で卵を与えた乳児に限ると、発症したのはわずか4%。重篤なアレルギー反応を起こした例もなく、安全に発症を予防できた。
これまでにも卵の粉末を食べさせてアレルギーを予防する試みはあったが、効果はなかった。今回は以前の研究で使われた生卵の粉末でなく、よりアレルギーを起こしにくい加熱した卵を用いた。
研究のヒントになったのは、2015年に英国のグループが発表した研究結果だ。生後4~10カ月から5歳までピーナツのたんぱく質2グラムを週3回食べさせると、ピーナツアレルギーを発症する子どもが3.2%に減ったという。食べなかった子どもは17.2%が発症した。
また、早くから子どもにピーナツを食べさせる習慣があるイスラエルでは、ピーナツアレルギーの発症が大幅に少ないことが、かねて知られていた。
千葉大学の下条直樹教授は、今回の結果について「アレルギー治療に携わる立場としても納得できる結果。科学的に高い水準できちんと証明した」と話す。
卵アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーの中で最も多い。口にするとじんましんやしっしん、皮膚症状、腹痛や吐くなど消化器症状、せきや呼吸困難など呼吸器症状が起きる。重くなるとアナフィラキシーと呼ぶショック状態に陥り、意識障害や血圧低下、最悪の場合は死に至る。
かつて、食物アレルギーを防ぐためには、原因となる卵や牛乳などを避けたほうがよいという考え方もあった。しかし食品を避けてもアレルギーの予防にはつながらないことを示す研究結果が増えたことから、米国や欧州では08年に、日本では12年に診療ガイドラインを改訂。アレルギーの原因となる食品を避ける根拠はないと明記された。
大矢医長は、「念のために食べ始めるのを遅らせましょう、という指導が、かえって食物アレルギーを増やしているのではないか」と指摘する。
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成育医療研究センターの研究に協力した乳児はいずれもアトピー性皮膚炎を起こしており、研究ではその治療も同時に実施した。「アトピー性皮膚炎をきちんと治療しつつ卵は早い時期に食べた方がよい、ということを証明するのが狙いだった」と大矢医長は話す。
最近では、食物アレルギーが原因でアトピー性皮膚炎がおこるのではなく、アトピー性皮膚炎のために皮膚からアレルギーの原因となる物質が体内に入りやすくなり、食物アレルギーを発症するという考えが主流になってきているという。しっしんなどの症状があれば、きちんと治療することも大切だ。
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発症したら医師に相談を
今回の研究はあくまで卵アレルギーになるのを防ぐ効果を示したもので、すでに食物アレルギーを発症している子どもについては話が別だ。保護者の判断で試したりせず、専門の医師に相談するようにしたい。
発症していない子どもにどのように卵を食べさせるかは、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」が参考になる。これによると7~8カ月目から加熱した卵の黄身を食べさせ始め、その後白身も含めた卵全体に広げる。量も次第に増やすのがよいとしており、今回の研究結果ともよく合う。
しかし実際には、子どもにアレルギーの原因となる食物を食べさせるのを遅らせる傾向が強い。環境省の調査によると、8カ月目までに卵を食べ始めた子どもは53%、1歳になっても食べていない子どもが7%いる。アレルギーの心配が少ないコメは6カ月以前に食べ始めた乳児がほぼ8割と、大きな差がある。
千葉大学の下条直樹教授は「アトピー性皮膚炎があっても、しっしんなどをきちんと治療して、ガイドに従って食べさせれば大丈夫」と話す。適切な時期に食物を与え始めることが、アレルギー予防には大切といえそうだ。
(小玉祥司)
[日本経済新聞朝刊2017年1月8日付]
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