大人もうっとり アートな生物図鑑10選
感謝込めて「癒やし」を贈ろう
大人がうっとりしてしまう、写真集のような生物図鑑が増えてきた。書店には「美しい」と銘打った図鑑がずらりと並ぶ。そこで専門家におすすめの生物図鑑を選んでもらった。
1位は猫の歴史をたどる視点が斬新。深海生物や昆虫、イモムシの意外な美しさに着目したものなど、切り口の工夫が際立つ。
出版科学研究所によると、大人向けの図鑑はここ数年、増加傾向にある。北川吉隆・小学館の図鑑NEO編集長は「見たことがない生き物への好奇心に加えて、癒やしを求める大人が増えてきたことが背景にある」と指摘する。千葉県立中央博物館の学芸員、斎木健一さんは「撮影や編集技術の進化も大きい」と話す。
お世話になった人に感謝を込めて、あるいは自分へのご褒美に、手に取ってみてはいかが。
ニャンと古代から現代まで外見・性格を分析
古代から現代まで、50種以上の猫の歴史をたどり、外見や性格の特徴を解説する。最初に発売された米国でも人気を集める。「犬の図鑑」もあるが、最近の猫ブームを反映してか「特に日本は猫の方がよく売れている」(エクスナレッジ販売部の伊藤晋さん)。愛くるしい表情の猫の写真は一枚一枚が大きい。「彫刻のように美しく、人形のように愛らしい猫にうっとり」(宮川彩子さん)、「それぞれの猫種の美しさが堪能できる」(小林由美子さん)
(1)タムシン・ピッケラル(著)、アストリッド・ハリソン(写真)、五十嵐友子(訳)(2)エクスナレッジ(3)2014年(4)4104円
漆黒に映える珍しい姿にギョギョッ
サメやアンコウなど、水深200メートル以上の深海生物を紹介。黒い背景が、珍しい姿形や色の鮮やかさを際立たせる。250ページを超える分量で「掲載種の多さと写真の美しさ、見せ方がすばらしい」(北川さん)、「普段見ることができない深海生物たちに目がくぎづけ」(小林綾乃さん)。著者は海洋研究開発機構の職員で「一般人では撮影できない深海生物の美しい写真が満載。底力を見た気がする」(斎木さん)。
(1)佐藤孝子(著)(2)成美堂出版(3)14年(4)1620円
ムシできない色鮮やかさ
自然にいるとは思えないほど色鮮やかな昆虫で構成され、幾何学的に並べた写真などアート色が濃い。「昆虫が持つ自然の美しさを感じられるなど、新たな発見を与える新しい形の図鑑」(吉見侑悦さん)。もともと昆虫嫌いだったアーティストが手がけた1冊は昆虫への印象を変える契機となり、米国でベストセラーに。「身近にいるすごい生物の存在に驚かされる」(坂愉利亜さん)。
(1)クリストファー・マーレー(著)、熊谷玲美(訳)(2)宝島社(3)14年(4)4104円
潜水歴40年のベストショット
潜水歴40年以上の著者が、万単位の写真の中から厳選した375点の写真を「形」や「擬態」など13のテーマに分けて紹介する。大半の写真は背景が黒く「漆黒の海に浮かぶ色彩豊かな生き物たちがまるで宝石のよう」(宮川さん)。「外観だけでなく一瞬の行動までもが美しい写真に収められており、ワクワクしながら読める」(北澤哲弥さん)。
(1)吉野雄輔(著)、武田正倫(監修)(2)創元社(3)15年(4)3888円
キモかわいく女性に人気
チョウやガの幼虫の入門書として各巻200種以上、計666種を紹介する。どんなさなぎや成虫になるか分かり「何の幼虫か正体が分からなかった不満を解消してくれる『使える』図鑑」(北川さん)。「不思議な形、美しい色彩のイモムシが満載で、なぜか女性に人気」(斎木さん)、「意外にかわいく、色とりどりのイモムシに癒やされる」(吉野沙樹さん)。
(1)安田守(著)、高橋真弓・中島秀雄ほか(監修)(2)文一総合出版(3)10、12、14年(4)各巻1512円
「想像しにくい寄生や共生をこれほどみせてくれる本は貴重」(坂さん)。「魚の口からのぞくウオノエ類、頭全体に寄生するカイアシ類など、奇妙な生き物に息をのむ」(北川さん)。
(1)星野修・齋藤暢宏(著)、長澤和也(編著)(2)築地書館(3)16年(4)1728円
珍しい動物を540点の図版で紹介。2ミリに満たないクマムシを鮮明に写すなど「機能美が切り取られ、一目で特徴が分かる」(北澤さん)。進化の系統ごとに体の構造や生活様式などを解説し「動物分類学の最先端がわかる教科書」(斎木さん)。
(1)ロス・パイパー(著)、日本動物分類学会会員有志(監訳)、西尾香苗(訳)(2)東京書籍(3)16年(4)5940円
透き通った体を持つ植物や昆虫、海の生物など229点を紹介。「薄氷をまとうかのようで、かつ力強い生き物たちが神秘的」(小林由美子さん)、「ガラス細工のような生物に魅せられる」(吉野さん)。小さい「愛蔵ポケット版」も。
(1)武田正倫・西田賢司(監修)(2)エクスナレッジ(3)13年(4)3024円
一見して見分けが付きにくいコケを106種類紹介。「コケのかわいさ、魅力が存分に伝わってくる」(小林綾乃さん)、「軽い読み物感覚で手にとれる構成とデザインで、思わず買ってしまった」(北川さん)。
(1)田中美穂(著)、伊沢正名(写真)(2)山と渓谷社(3)14年(4)1728円
食用や毒があるキノコを中心に、日本の主なキノコ約440種を紹介する。「原寸大で検索表がつき、初心者も使いやすい」(斎木さん)、「実物大の写真が並び、種ごとの個性が際立つ。デザイン性も実用性も兼ね備えている」(北澤さん)。
(1)大作晃一(著・写真)(2)山と渓谷社(3)15年(4)1944円
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ランキングの見方 数字は選者の評価を点数化。(1)著者、撮影者、監修者など(2)出版元(3)初版年(4)税込み価格。
調査の方法 専門家の協力で、美しい生物図鑑のリストを作成。10人の選者にビジュアル部分の美しさや図鑑として学べる要素、買って読みたくなるかなどの観点で評価してもらい、編集部で集計した。選者は次の通り(敬称略、五十音順)。
梶川博(日本大学生物資源科学部教授)▽北川吉隆(小学館の図鑑NEO編集長)▽北澤哲弥(エコロジーパス)▽小林綾乃(ジュンク堂書店池袋本店)▽小林由美子(リブロららぽーと富士見店)▽斎木健一(千葉県立中央博物館学芸員)▽坂愉利亜(ヴィレッジヴァンガードイオンモール大高店)▽宮川彩子(楽天ブックス書籍グループ)▽吉野沙樹(紀伊国屋書店)▽吉見侑悦(代官山蔦屋書店)
[NIKKEIプラス1 2016年12月24日付]
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