講談師・神田松之丞 迫真の語り、若者とりこに
パンパンと張り扇で台をたたきながら、途切れることのない迫真の語り。落語に負けない笑いの量と分かりやすさで客席をとりこにする講談の二ツ目、神田松之丞が演芸界で台風の目になっている。「宮本武蔵」や「慶安太平記」といった長編の連続物を次々と持ちネタにしながら、新作でも評判を呼ぶ。いまブームの落語ファンを取り込んで、講談人気に火を付けた。
東京・渋谷の映画館で開く「渋谷らくご」や新宿末広亭の「深夜寄席」といった若手落語会が大盛況だ。こうした場所で超満員の人気を得ている松之丞が、客足を講談にも呼び込んだ。上野のお江戸上野広小路亭で月2回開かれる日本講談協会の定席では、数年前まで20~30人だった観客数が最近は倍増。60~70人を集めてほぼ満席が続く。客層は古くからの講談ファンに加え、松之丞目当ての20代が1、2割交じるようになった。
東京の演芸界に詳しい早稲田大学演劇博物館助教の宮信明氏は「松之丞さんの講談は演技性が高いうえ、笑える形で注釈を加えるなど初心者にも親切なのが特徴」と話す。物語の地の文よりも登場人物の会話を重視し、客層に応じて演出を加減できる力量が最大の強みだ。
高校時代から落語好きだったという松之丞。「立川談志師匠の著書に講談のことがよく出てきて、あの師匠が言うんだから何かあるに違いないと思って講談を見続けた。そのうち歴史物の人間ドラマの奥深さにはまっていった」。しかし、当時の客席は人もまばらで、若い人は見向きもしない。「生意気にも自分だったらもっと面白く、魅力を広められるんじゃないかと思って、使命感を抱いて講談師になることを決めた」
2007年、24歳で三代目神田松鯉に入門。落語芸術協会にも所属し、前座時代は寄席の楽屋番に入って落語家とともに修業してきた。同協会所属の二ツ目によるユニット「成金」にも参加。落語家に交じって腕を磨いている。
松之丞は「講談は宝の山。いずれ講談中心の寄席をつくりたい。そのためには自身が芸を継承し、ファンを拡大して講談師を増やすことが急務。いまは危機感しかない」と話している。
(雄)
[日本経済新聞夕刊2016年12月21日付]
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