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会談に臨む安倍首相とトランプ氏(17日、ニューヨーク)=内閣広報室提供

会談に臨む安倍首相とトランプ氏(17日、ニューヨーク)=内閣広報室提供

環太平洋経済連携協定(TPP)が国会で承認されたけれど、次の米大統領になるトランプ氏は離脱すると言っているわね。TPPはいったいどうなるの。

TPPの行方について、斎藤和江さん(48)と関根由夏さん(35)が瀬能繁編集委員の話を聞いた。

トランプ次期米大統領がTPPから離脱を宣言するそうですね。

「TPPは日本や米国を含む太平洋地域の12カ国が締結に向けて2015年10月に大筋合意した協定です。モノの輸出入にかかる関税の大部分を撤廃するだけでなく、サービスや投資の自由化を進め、知的財産や電子商取引、国有企業の規律、環境など幅広い分野で新しい共通ルールを構築しようとしています。参加12カ国の国内総生産(GDP)を合計すると約3100兆円に達し、世界全体の約4割を占めます。日本の安倍晋三首相は自身の経済政策『アベノミクス』の重要な柱としてTPPを位置づけていました」

「オバマ米大統領もTPPに前向きでしたが、11月の米大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補も、共和党のトランプ候補もTPPに反対していました。とはいえ、クリントン候補が反対するのは米国内の労働組合の支持を得るためで、当選すればTPP容認に転じるのではないかという見方もありました。来年1月までのオバマ大統領の任期中に米議会がTPPを承認する可能性もありました」

「しかし『TPPはばかげた協定だ』と強硬に反対していたトランプ氏が当選し、米議会が承認する可能性はなくなりました。トランプ氏は『大統領就任初日にTPP離脱を通告する』『代わりに、米国に仕事と産業を取り戻す公平な2国間の通商交渉にあたる』と表明しています」

安倍首相はトランプ氏の翻意を期待しているのですか。

「安倍首相はトランプ氏当選後、『大変厳しい状況になってきたことは率直に言って認識している』と認めました。ただ同時に『米国が政権交代期にある今、わが国こそが早期発効を主導しなければならない』として、TPPと関連法の成立に全力を挙げる考えを示しました。とはいえ、トランプ氏がすぐ翻意する可能性はほとんどないでしょう」

米国が参加しないとTPPはどうなるのですか。

「TPPは12カ国のうち最低6カ国が国内手続きを完了して、そのGDPの合計が12カ国合計の85%以上を占めないと発効しない決まりになっています。米国のGDPは12カ国合計の約60%、日本のGDPは約18%を占めるので、日米のどちらか1国でも国内手続きを完了できなければ、TPPは発効しません」

「米国抜きの11カ国でのTPPをめざすべきだという意見もあります。米国には後から参加してもらえばいいという考え方です。しかし、米国抜きではTPPのメリットも大きく低下してしまいます。11カ国でスタートするなら再交渉も必要になり、時間もかかります。あまり現実的な案とはいえないでしょう」

「トランプ氏が2国間協定を重視していることから、日米2国で経済連携協定(EPA)を結んではどうかという意見も米国内にはあります。しかし、米国が強硬な要求をすれば、日本はTPPよりもさらに大きな譲歩を迫られるかもしれません。これも現実には難しいでしょう」

日本は今後、どう対応するのでしょうか。

「とりあえず、TPPの協定をいまのまま棚上げして、米政権の姿勢が変わるのを待つのが現実的です。そして、まず東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉で合意をめざすことになりそうです」

RCEPって何ですか。

「RCEPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの合計16カ国が交渉に参加している広域EPAです。RCEPとTPPの両方に参加をめざしている国もありますが、RCEPには中国とインドが入り、米国は入らないことが大きな違いです。中国主導の自由貿易圏ができるかもしれないと、米国はRCEPに警戒感を持っています。来年にもRCEPの合意にこぎ着けて、米国に圧力をかけることでTPPも前進させるのが日本の狙いでしょう」

ちょっとウンチク


翻意狙う日本「急がば回れ」
 日本は環太平洋経済連携協定(TPP)を起点に、高水準の貿易・投資ルールをアジアに広げる通商戦略をとっていた。TPPに不参加のタイやフィリピンなどの参加を支援し、TPP経済圏を拡大するという発想だ。
 トランプ次期米大統領の誕生を控えた今、日本政府の関心は「TPPを殺さないこと」。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉により力を入れ始めたのも、中国主導の貿易秩序ができかねない事実を米国に見せ、TPPに前向きな姿勢に転じてもらう「急がば回れ」の作戦からだ。
 実は米共和党の上院議員の間には「トランプ氏をTPP支持に翻意させる」との声はある。ただ、その前提がまず日米2国間の経済連携協定(EPA)を結ぶことならば、日本は乗りにくい。焦点は来年秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前にトランプ氏がどう対応するか。それまでTPPは死滅はしないが、動かないという「凍結」の状態が続くと予想する日本政府関係者が多い。
(編集委員 瀬能繁)

今回のニッキィ


斎藤 和江さん 自動車メーカー勤務。神社仏閣などのパワースポット巡りにはまっている。「自分自身の活力が湧いてくる気がします。御朱印集めも楽しいですね」
関根 由夏さん 物流会社勤務。日本百名山の制覇をめざして山登りを楽しんでいる。「最近は歩いて登るだけでなく、山を走るトレイルランニングも始めました」
[日本経済新聞夕刊2016年12月19日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は2017年1月9日の予定です。

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