超予測力 P・E・テトロック、D・ガードナー著
正解多い人の方法や特徴とは
鉄板だと思われた予想がみごとはずれることがしばしば起きる。今年で言えば、イギリスのEU離脱やトランプ氏の大統領選勝利がそれだ。株価の暴落が大多数の人の読み違いを裏付けた。本書は、このようなままならない地政学的予測・経済的予測に長(た)けた「超予測者」が実際に存在することを明らかにし、彼らの特徴を分析した本である。
著者テトロックらは数千人のボランティアを集め、「優れた判断力プロジェクト(GJP)」なるものを組織し、彼らに、「朝鮮半島で戦争が勃発するか」「金相場は暴落するか」といった膨大な予測問題を課した。日本に関する予測では「安倍晋三首相が靖国神社を訪問するか」などがある。これらの予測問題について、一般人よりも、また、専門家と呼ばれる人々に対してさえも、成績が有意に優れた人々が見つかったのである。
こう聞くと、慎重な人は、単なるまぐれじゃないの? とかんぐることだろう。○×クイズに莫大な人が参加すれば、統計的に全問正解者が存在する。でも大丈夫、著者はちゃんとこのツッコミへの回答を用意している。統計学の観点でも、超予測者はまぐれではないのだ。
彼らは学歴も職業もさまざまだ。その特徴は人物ではなく方法論にある、と著者は説く。方法論的な特徴は多数ある。彼らは複眼的であり、数字に強い。思想・信条に固執せず、反対意見を重んじる。確率論的な視点を持ち、情報によって予測を更新する。
本書を読むと、まるで我々誰もが超予測者になれるかのような錯覚に陥るが、そう甘くはないだろう。何より彼らは、膨大な予測問題に、タフな情報収集と詳細な論理的考察で回答するエネルギーを持ち合わせている。これだけでもう生まれ持った特殊能力と呼べるだろう。でも、超予測者の仲間入りは無理としても、並予測者くらいにはなれるかもしれない。超予測者の方法論は、どれもが常識的であり、突飛(とっぴ)ではない。高度な数学も必要ない。ただそれは、我々が面倒がって無意識に避けている考え方なのだ。これらを表層意識に刻むだけで、予測能力はだいぶ改善されることだろう。
さらに本書を同僚みんなで読み込んで議論すれば、会社の雰囲気が明日から変わるかもしれない。とりわけ、第9章のチームワークの議論は、管理職の方々には溜飲(りゅういん)下がるものだろう。そんな時間がない、と嘆く超多忙者は、付録「超予測者をめざすための10の心得」を斜め読むだけでも十分に役立つ本である。
(帝京大学教授 小島 寛之)
[日本経済新聞朝刊2016年12月18日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。