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がん新薬、なぜ超高額? 公的医療保険にも深刻な影響

2016/12/12 日本経済新聞 夕刊

がんの画期的な治療薬の値段が高すぎると話題になっているようね。1人の患者が1年間使うと何千万円もかかるらしいけど、どうしてそんなに高いのかな。

超高額医薬品の問題について、青木経子さん(55)と奥田英里子さん(29)が山口聡編集委員の話を聞いた。

超高額の医薬品が話題になっていると聞きました。

「小野薬品工業が販売するがん治療薬『オプジーボ』ですね。2014年発売のオプジーボは、京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)客員教授の研究成果を使って小野薬品工業が開発しました。従来の抗がん剤とは作用が根本的に異なる画期的な新薬で、治療効果が高いのが特長です。ノーベル生理学・医学賞候補に本庶客員教授の名前が挙がるほどです」

「当初は特殊な皮膚がんの悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として国が承認し、昨年から肺がん、今年から腎細胞がんの治療にも使えるようになりました。恩恵を受ける患者が大幅に増えた一方、薬価が極めて高額だったことが問題視されました。そこで国はオプジーボの薬価を来年2月から半額に引き下げることにしました」

そもそも薬価って何ですか。

「ドラッグストアなどで買える薬は大衆薬や一般用医薬品といい、製薬会社が自由に価格を決めることができます。一方、医師が処方する医療用医薬品は健康保険などの公的医療保険の対象のため、すべての薬の値段を国が決めています。これが薬価です。オプジーボの薬価は現在100ミリグラム約73万円で、米国の約30万円などと比べかなり高額です。成人男性の患者が1年間使うと約3500万円もかかります」

「公的医療保険では、現役世代の患者なら使った費用の3割が自己負担です。さらに所得に応じて自己負担を一定額に抑える『高額療養費制度』があるので、患者負担はそう大きくはなりません。しかし公的医療保険の財政は非常に厳しくなります。放置すれば、わたしたちが支払う健康保険料と税金で成り立っている公的医療保険に深刻な影響を与えかねません」

なぜそれほど高額になったのですか。

「新たに発売する医薬品の薬価は、同じような効能ですでに使われている薬があれば、その薬価を参考に決めます。しかし、オプジーボのような画期的な新薬では参考にできる薬がありません。そこで国と製薬会社が相談して、開発費用がいくらかかったか、使う患者がどれくらいいるかといった数字を基に、開発費を回収できるような薬価を決めます」

「画期的な新薬を開発するには分子構造からまったく新しいものをつくらなければならず、費用がかさみます。オプジーボは巨額の開発費がかかったうえに、当初対象になっていたメラノーマの患者は500人くらいしかいない見込みだったため、極めて高額になってしまいました。オプジーボの承認は日本が世界で初めてだったため、ほかの国の価格を参考にできなかったこともありました」

「その後、いろいろながんに使ってみて効果を確かめる治験が進み、肺がんにも承認されると使える患者数が大幅に増えました。患者数が大幅に増えれば薬価引き下げの対象になりますが、薬価改定は2年に1度と決まっています。2016年の春に薬価改定があったばかりで、通常なら次の改定は18年春です。今回は、年間1500億円を超える売り上げが見込める場合は特例で50%引き下げることができるという仕組みを半ば無理やり適用する形でオプジーボの薬価引き下げが決まりました」

現在の制度を改善する必要もありそうですね。

「発売当初はメラノーマにしか使えなかったとはいえ、ほかのがんにも効果がありそうだということは予想されていたので、最初の価格設定が高すぎたことは否めません。とはいえ、薬価が低すぎると、巨額の開発費が必要な画期的新薬の開発に製薬会社が及び腰になりかねないという問題もあります。突然、恣意的に価格を引き下げられたら、製薬会社の事業計画も狂ってしまいます」

「2年に1度の改定をもっと頻繁にすることは必要でしょう。薬価を決める際に費用対効果をもっと考慮すべきだという議論もあり、実際に英国などでそうした制度を導入していますが、費用対効果をどうやって測るのかなど難しい問題もあります」

■ちょっとウンチク
医療費抑制へ処方も課題
超高額薬が話題となるが、医療費全体を抑えていくためには、個々の薬の値段の引き下げだけではなく、薬の使い方も見直していく必要がある。
日本の国民医療費は年間約40兆円に達する。このうち薬剤費の比率は2割ほどだ。20年ほど前にはこの比率が30%近くあり、国際的に見ても高いと批判されていた。その後、全体的に薬価を抑える方向の制度改革が進み、今の程度にまで下がってきた。「オプジーボ」を巡る騒動は薬価制度にまだ改善の余地があることを示したものの、まったくの無策でもなかったわけだ。
ただ、薬の処方という面では大きな問題が残る。「安易に抗生剤が処方されている」「高齢者に飲みきれないほどの薬を出している」といった指摘は以前から多い。飲まずに放置される薬は年500億円分に達するとの推計もある。
「医者にかかると必ず薬をもらいたがる患者にも問題がある」ともいわれる。薬についての国民的な意識改革も求められそうだ。
(編集委員 山口聡)
■今回のニッキィ
青木 経子さん 眼科勤務。最近、ホテルでランチバイキングやスイーツビュッフェを楽しむことが増えた。「食べる前後にはスポーツジムでカロリーを消費します」
奥田 英里子さん IT(情報技術)企業勤務。毎週日曜日に英エコノミスト誌を読む会に参加している。「英語はもちろん、世界のいまの動きも勉強になります」

[日本経済新聞夕刊2016年12月12日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は12月26日の予定です。

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