免疫高めるビタミン B1などの関わり、仕組み判明
取り過ぎには注意必要
肌を健康に保ち疲れが残らないよう、ビタミンの摂取は大切と古くから言われてきた。最新の研究成果から、免疫の機能を高めるうえでもビタミンの重要性が見直されている。特定の食品に偏りがちな人や食事を十分に取れない高齢者は、病気になりにくい体づくりのため、ビタミンを積極的に取るとよいだろう。
ビタミンと免疫の関係は、腸が持つ免疫機能の研究から浮かび上がった。医薬基盤・健康・栄養研究所の国沢純プロジェクトリーダーは「ビタミンA、B1、B6、葉酸で詳しい仕組みが分かってきた」と話す。
代表的な例がビタミンB1だ。不足するとかっけなど神経障害を伴う疾患を起こすことが知られていたが、最近の研究から、腸の「パイエル板」という組織にある免疫細胞の維持にも深く関わっていることがわかった。ビタミンB1が減るとパイエル板は小さくなり、生体の防御機能が弱くなる。そのため感染症にかかりやすくなる恐れがある。
現在、口から「飲むワクチン」の開発が進んでおり、今後増えると見られるが、ビタミンB1不足の人は、ワクチンを飲んでも免疫が十分に働かない。国沢プロジェクトリーダーは「栄養事情も考慮しないといけない」と解説する。
また葉酸が、免疫を抑える働きをもつ「制御性T細胞」の増殖を左右していることがわかった。葉酸が不足するとこの細胞はなくなっていき、やがて腸の粘膜が炎症を起こす。体の免疫機構が自らを攻撃する自己免疫疾患の症状だ。葉酸はかねてたんぱく質や赤血球の合成に重要とされていたが、新しい機能が見つかった。
厚生労働省は5年ごとに「日本人の食事摂取基準」を改訂し、摂取不足が起きないよう注意を払ってきた。その作業班に加わってきた滋賀県立大学の柴田克己教授は「健康な人はおおむねビタミンを十分に取っている」と話す。
しかし注意すべき人も多い。閉経後に骨が弱くなっていく高齢女性には、骨の成長を促すビタミンDの摂取が重要だ。外に出て太陽光を浴びないとビタミンDが働かないため、1日30~60分は日を浴びる必要もある。
妊婦や授乳婦で太らないよう食事を制限している人も、ビタミンが不足しがちになる。常用する必要はないが、ビタミンを手軽に取れる様々な補助食品が市販されている。柴田教授は「肌が荒れるなどの変化を感じたら、摂取を心がけよう」と呼びかける。激しい運動をする人、好き嫌いの激しい子供らも同様だ。
一方で、過剰な摂取に気をつけなければいけないビタミンもある。水溶性のビタミンは取りすぎれば尿などにより排せつされるが、脂溶性のビタミンは排せつしにくい。
ビタミンAの場合、多く取り続けると吐き気や目まい、頭痛を起こしやすくなり、肝臓の疾患を招くリスクも高まる。ビタミンDでは、腎臓や筋肉にカルシウムが沈着して食欲不振や体重減少などを起こす報告がある。一部のビタミンには摂取の上限値が設定されており、不安な人は専門家に相談するといいだろう。
このほか、腎臓に障害のある人がビタミンCを毎日数グラムと大量に摂取すると、結石のリスクが高まることがわかっている。結石を恐れてビタミンCを取らない方が健康を損なう恐れが強いため「ビタミンCについては上限値を設定しなかった」(柴田教授)というが、望ましい摂取量は1日0.1グラムだ。
ビタミンをうまく取って、健康維持に役立てよう。
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▼ビタミン 生命の維持に必要な微量な化合物で、現在までに13種類が判明している。人の体内では作られないため、食物から摂取しなければならない。糖、たんぱく質、脂質、ミネラルに続く「第5の栄養素」としばしば呼ばれる。
東京大学の鈴木梅太郎教授が1910年に米ぬかに含まれる未知の栄養素「オリザニン」を発見したのが最初のビタミン(B1)といわれる。国内での発表だったため海外では知られなかった。ほぼ同時期に研究していた英国とオランダの研究者が、ビタミンの発見で1929年のノーベル賞を受賞した。
(編集委員 永田好生)
[日本経済新聞夕刊2016年12月8日付]
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