ホームパーティーにはあこがれるが、部屋は狭いし準備や片付けは大変――。それならキッチン付きのスペースをレンタルで使うのも一手だ。皆で部屋を飾ったり料理を作ったりすれば楽しさも倍増。レンタルスペースの現場をのぞかせてもらい、上手な使い方を探った。
11月の土曜日の午後、都内の分譲マンション内にあるキッチン付きパーティールームに集まったのは20代から40代まで総勢16人の男女。「皆で料理を作って楽しむ」が趣旨の集まりで、当然、全員エプロン姿だ。「まずは乾杯しましょう」。企画者の一人、堤内杏奈さん(25)の声に続き「どう、最近?」「初めまして」の言葉が飛び交う。
この部屋には大きな調理台にオーブン、調理器具や食器類が備え付けで、食卓も15、6人は座れるビッグサイズ。わいわいお酒を飲みつつローストビーフなど6品が2時間で完成した。「おいしいしきれい。一人では大変でも皆で作れば楽しい」と笑みがこぼれる。
参加者の一人がこのマンションの住人で、パーティールームを借りることができた。「大人数が一斉に作業でき場の一体感もアップし一段と盛り上がる」と主催者の今西由紀さん(46)。参加者の丸山咲さん(24)も「貸し切りなのでプライベート感も強い」と満足げだ。
最近の大規模マンションではこうしたパーティールームを売りにしている所も増えており、設備も整っている。冒頭のパーティーは部屋の使用料と食材や酒代を含め会費は1人4000円。ただ、こうしたマンション内の専用スペースは住人のための施設。パーティーの参加者に住人がいなければ借りられない。
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知り合いにこうした住人がいないならば、最近増えている時間貸しのレンタルスペースの利用を考えたい。空きスペースの貸し借りを仲介するネットサービスも複数あるので情報を集められる。
スペースマーケット(東京・新宿)には、11月時点でキッチンも使えるレンタルスペースとして全国で約1300件が登録中。ここ半年で1.5倍に増えている。古民家や雑居ビルの空き室を改修したものや隠れ家風カフェなど飲食店が営業時間外に貸し出す店舗など。タイプや広さは様々で料金は開きがあるが平均すると1時間3000円程度のところが多い。物件は東京、大阪、福岡など大都市圏で8割を占めるが「地方にも広がりを見せている」(同社の重松大輔代表取締役社長)。
条件にあうスペースを選ぶのは難しいが、重松社長は「(サイトにある)利用者のレビューを丹念に読むのがポイント」という。スペースの貸し借りは利用者とオーナーの直接のやり取りになるので、いいレビューが多いほど外れは少ない。人気の場所は2、3カ月前から予約で埋まるほどだ。予定が決まったら早めに物件確保に動きたい。
こうしたリノベーションした都内の雑居ビルの一室を11月の日曜に1日借りて、友人2人の誕生日のパーティーを企画したのは木村明日香さん(23)ら4人。主賓にはパーティーの目的を内緒にし、開始時間の前に4人が集合。川島萌子さん(23)が壁にカラフルな装飾品、ガーランドを張るなどし、木村さんらは料理に奮闘した。
「自宅は狭いし店の貸し切りは高い。必然的にレンタルとなった」と木村さん。重視したのは収容人員が10人以下のこぢんまりした感じと料金。時間単位の料金設定が多い中、1日で1万7000円程度の割安な料金が決め手になった。
なお、備品などで確認したいことがあれば、物件オーナーに事前に問い合わせしておこう。当日までに疑問を解消しておくのはこうしたスペースを利用する際の基本だ。
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レンタルスペースは気軽に使える一方、ルールやマナーには気を付けたい。部屋を汚したり壊したりするのは論外だが、失敗しがちなのは終了時間。「お店ではないので片付けは利用者の義務。わかっていても特にお酒が入ると時間がかかりがちだ。時間に余裕を持って」と一般社団法人日本ホームパーティー協会(東京・渋谷)の高橋ひでつう会長は助言する。
「自宅やお店とは違ったレンタルスペースならではの楽しみ方もある」と高橋さん。和風の場所なら一点和を取り入れた服で集まる、音響設備の整った所ならアナログレコードを参加者に持ち寄ってもらうなどアイデア次第だ。はじめにスペースありきのパーティーを考えてみるのも楽しそうだ。
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レンタルスペースに持参すると便利なのが養生テープやマスキングテープ。装飾以外にも、誰のかわからなくなるグラスに名前を書いたテープを貼ることもできる。ポケットに紛れこみがちなワインオープナーも予備があれば慌てない。
(ライター 村樫 裕理子)
[日本経済新聞夕刊2016年12月7日付]