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トランプタワーで会談に臨む安倍首相とトランプ次期米大統領(11月17日、ニューヨーク)=内閣広報室提供

トランプタワーで会談に臨む安倍首相とトランプ次期米大統領(11月17日、ニューヨーク)=内閣広報室提供

ドナルド・トランプ氏が米国の新しい大統領に決まったわね。正式に就任するまであと1カ月半あるけど、どんな大統領になるのかな。

ドナルド・トランプ次期米大統領について、海老沢亜希子さん(31)と奥村彩香さん(35)が大石格編集委員の話を聞いた。

米大統領選でトランプ氏が当選したのは意外でした。

「トランプ氏に投票しようと思いつつ、それを口外しない『隠れ支持者』が予想以上に大勢いたことが世論調査とは異なる結果を生んだ要因です。『隠れトランプ』の多くは、非白人の移民に職を奪われた貧しい白人の男性であるという分析が多いのですが、実は裕福な白人や、白人の女性も、かなりの割合でトランプ氏を支持しました」

「米国では中南米からの移民やその子孫であるヒスパニックの人口が急増しています。ヒスパニックが支持するヒラリー・クリントン氏が有利と米メディアはみていました。でも、減りつつあるとはいえ現時点でいえば白人は米国民のなお6割超を占めます。白人だけをターゲットにしたトランプ陣営の大胆な戦略が結果的に功を奏しました」

「『ポリティカルコレクトネス』(政治的な正しさ)をあまりにも重視しすぎる最近の米国の風潮に不満を持つ人が多いことも挙げられます。人種や宗教などの違いによる差別をなくそうとするポリティカルコレクトネスは、特にオバマ大統領の就任後、強く推奨されました。米国の小売店の年末セールでは、キリスト教徒以外の人に配慮して『メリークリスマス』と表示できなくなっています。こうした状況に不満な人々が、言いたいことをズバズバ言うトランプ氏を支持したようです」

「アメリカ・ファースト」(米国第一)を主張し、在日米軍の撤退も辞さないと発言していますね。

「トランプ氏の主張はさほどとっぴではありません。1992年と96年の米大統領選の共和党予備選に出馬したパット・ブキャナン氏も『アメリカ・ファースト』を掲げていました。2008年と12年の共和党予備選に立候補したロン・ポール氏は在外米軍の撤退を公約しました。現職のオバマ大統領も『米国はもう世界の警察官ではない』と発言しています」

「でも、新政権が孤立主義一辺倒になるかどうかはまだわかりません。オバマ政権が直接の軍事介入を避けてきたシリア内戦についてトランプ氏はロシアと協力して過激派組織『イスラム国』(IS)を壊滅させるべきだと主張しています。『米国を再び偉大に』ぐらいしか明確な方針がないため、極めて先行きを読みにくい政権になりそうです」

選挙中の公約について少し軌道修正もしているようですね。

「『メキシコとの国境に高さ8メートル級の壁を造る』と公約しましたが、選挙後は『フェンスも併用する』と発言しました。メキシコとの国境には01年の米同時テロ後、テロリストが米国に入るのを阻止する目的で高さ4メートル級の壁やフェンスが既に建設されています。少し手を加えただけで『公約を果たした』というかもしれません」

「オバマ大統領が推進した医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃という公約も、選挙後は『一部残す』と軌道修正しました。日本については目立った発言をしていませんが、日本側が『米軍がいなくなるので、自衛隊は核武装すべきだ』などと極端な議論を慌てて始める必要はないと思います」

安倍晋三首相がニューヨークでトランプ氏と会談しましたね。

「世界の政治リーダーの中で、トランプ氏の当選後最初に直接会ったのが安倍首相でした。安倍首相はトランプ氏を『信頼できる指導者だと確信した』と述べています。ただ、突っ込んだ政策論議には至らなかったようです。安倍政権が重視する環太平洋経済連携協定(TPP)についてトランプ氏は『大統領就任初日に離脱を宣言する』と表明しました。翻意させるのはまず無理でしょう」

「日本にとって、もう一つ影響が出そうなのがロシアとの関係です。12月15~16日に日本で開く日ロ首脳会談で、安倍首相は北方領土問題を前進させたい考えでした。米国と険悪な関係のロシアが日ロ関係を重視して譲歩する可能性があるという見立てでしたが、トランプ氏が対ロシア関係の改善に前向きなことは、安倍首相にとって逆風になるかもしれません」

ちょっとウンチク


問われるメディアの役割
 いま多くの米メディアが挫折感にさいなまれている。選挙予測を外したからではない。自分たちのトランプ批判が米国民の投票行動にほとんど影響を与えなかったからだ。ツイッターなどを通じたトランプ氏の場当たり的な発言に歓喜する人々は、新聞やテレビが手間暇をかけて過去の言動などを調べ上げ、問題点を指摘しても全く気にとめなかった。
 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は政治を変えつつある。有権者の支持が必要な民主主義はポピュリズムに陥りがちだ。新聞やテレビが扇動の片棒を担いだこともある。それでもメディアという「ろ過装置」によって、あからさまなデマや社会常識に反する人物は淘汰されてきた。
 トランプ氏は当選後もメディアの直接取材にほとんど応じず、SNSで一方的に情報発信する。世の中がSNSで既に知っている話題を後追いせざるを得ない米メディアの屈辱感は同業者として決して他人事ではない。メディアの果たす役割がいまほど問われる時代はない。
(編集委員 大石格)

今回のニッキィ


海老沢 亜希子さん エネルギー関連企業勤務。幼稚園の時から始めたピアノ演奏が趣味。「今は発表会に向けて、シューマンの曲に挑戦しようと練習しています」
奥村 彩香さん 監査法人勤務。フィギュアスケート観戦が趣味。「海外出張中に世界中どこからでもスマホで観戦できるよう、視聴環境をバッチリ整えています」
[日本経済新聞夕刊2016年12月5日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は12月19日の予定です。

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