息切れしやすい… 深くゆっくり「長生き呼吸」を
呼吸筋鍛え、自律神経の調整も
呼吸をする時は鼻や口から空気を吸い込み、肺に取り入れているが、肺自体には膨らむ力はない。肺は肋骨などに囲まれた胸郭の内部にあり、胸郭が動いて呼吸運動が起きる。胸郭を動かす筋肉を呼吸筋という。
「呼吸筋は20種類以上。吸う時に使う吸息筋と、吐く時の呼息筋に分けられる」と話すのは、呼吸生理学に詳しい東京有明医療大学(東京・江東)副学長、本間生夫教授。例えば、胸郭と腹部の境にある横隔膜や肩甲骨辺りの僧帽筋、肋骨を引き上げる外肋間(ろっかん)筋は吸息筋。肋骨を引き下げる内肋間筋や腹直筋、腹横筋、外腹斜筋などは呼息筋だ。
横隔膜動かす
肺機能は加齢に伴い低下する。普段の呼吸で息を吐いた後に肺に残る空気の量(機能的残気量)が増えてくるのも、加齢による変化の一つ。「機能的残気量が増えると肺が膨らみ過ぎた状態になることで、呼吸が浅くなりやすい。この肺の老化の速度を緩めるには、深い呼吸で呼吸筋の弾性を高めることが大切」(本間教授)
日産厚生会玉川病院(東京・世田谷)循環器科の坂田隆夫副部長は、息をゆっくりと長く吐く深い呼吸を「長生き呼吸」として提唱している。無意識の呼吸は胸と腹の呼吸筋を使う胸腹式呼吸だが、呼吸が浅くなっている人は胸の呼吸筋をより多く使っているという。一方、長生き呼吸では横隔膜と腹の呼吸筋を意識的に大きく動かす。
「横隔膜の周囲には自律神経が集中している」と坂田副部長。自律神経には主に活動時に働く交感神経と、休息時に働く副交感神経があり、働き自体が落ちるか、バランスが乱れると様々な心身の不調につながる。自律神経は自分の意思とは無関係に働くが、呼吸で意識的に調整できると分かってきた。
「長生き呼吸をすると、自律神経の働きをよくできることが、心拍間隔の解析などで確認されている」(坂田副部長)
長生き呼吸は立っても座ってもできる。鼻からゆっくりと息を吐き切り、鼻からゆっくり吸う鼻呼吸が基本。慣れない人は硬めの床にあおむけに寝て、口をすぼめて「フーッ」と声をもらしながら息を吐くと感覚がつかみやすい。腹筋に力を入れ過ぎていきまないのがコツだ。吐気と吸気の長さは2対1の割合になるのを目標に。
「まずは形式にとらわれず、気持ちいいと感じる長さや回数から始めて習慣にしてほしい。仕事で疲れたときや緊張した時などに3分程度行うだけでも気持ちが落ち着く」(坂田副部長)
運動も効果的
呼吸筋は老化のほか、運動不足や悪い姿勢でも衰え、衰えると呼吸が浅くなる。運動不足が原因で衰えやすいのは、腰椎と太ももの大腿骨を結ぶ筋肉や横隔膜を背中側から引っ張って動かす筋肉などだ。
だが、「散歩やウオーキングなどの軽い運動で鍛えることができる。また、水泳などの有酸素運動も呼吸の改善につながる」(坂田副部長)。運動が難しい人は、大きな声で歌う、笑うなどでも一定の効果を感じられるという。
呼吸器専門医で池袋大谷クリニック(東京・豊島)の大谷義夫院長は、「姿勢で特に注意したいのが、パソコンやスマートフォンに向かう時の猫背」と指摘する。背中が丸まった姿勢では横隔膜が常に上がった状態になり、うまく空気を吸い込めず、十分な呼吸ができない。
「猫背の時の浅い呼吸は、姿勢を正した深い呼吸と比べると、肺活量をもとに計算した肺年齢が10歳以上高くなる場合もある」(大谷院長)。逆に、深い呼吸を習慣化すれば姿勢がよくなり、肺年齢を実年齢より若く維持することも可能だ。
坂田副部長は「長生き呼吸を鼻呼吸でできるようになると、免疫が活性化されて風邪をひかなくなる人が多い」と話す。大谷院長も「普段から肺や呼吸機能を高めておくことは、風邪から肺炎といった病気の重症化の予防にもつながる」という。いつでもどこでも簡単に呼吸を意識することは可能。忙しい12月だからこそ、ゆっくりと深い呼吸を実践してみよう。
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口呼吸にならないよう注意
風邪の本格的なシーズンが到来した。予防の基本は手洗いと水うがい。「ヨード入りうがい薬は体に必要な細菌まで殺菌するため、あえて予防に使わない」(大谷院長)
口呼吸にも注意したい。口呼吸では気道を覆う線毛が乾燥して、ウイルスや細菌の侵入を防ぐ免疫機能が低下するという。室内外の寒暖差が7度以上あると鼻水や鼻づまりが生じて、口呼吸になりやすい。エアコンなどで温度を調整し、湿度はインフルエンザウイルスの活性が低下する50%以上を保ちたい。
書類仕事で集中すると、つい口呼吸になりがち。「のどアメをなめると自然に口が閉じて乾燥も防げる」(大谷院長)
(ライター 田村 知子)
[日経プラスワン2016年12月3日付]
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