応仁の乱 呉座勇一著複雑な背景を最新史料で読む

「応仁の乱」といえば、誰でも知っている日本史上の有名な内戦である。古くは東洋史家の内藤湖南が、“日本史を両分する画期となる戦乱”と定義し、「今日の日本を知るために」は「応仁の乱以降の歴史を知っていたらそれで沢山(たくさん)」と喝破したことが、日本史家にも強く影響を与えた。

(中公新書・900円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

また京都の旧家で「この前の戦争で皆焼けてしもうて」などというので、太平洋戦争のことかと聞きただすと、それがなんと応仁の乱のことだと知って呆気(あっけ)に取られたという笑い話はよく聞かされた。このような史上重大な戦争であったから、多くの論述があったかというとそうではなく、評者らの研究時代は、わずかに永島福太郎『応仁の乱』(至文堂日本歴史新書)一冊のみであって、専ら同書を座右に備えて参照するという状況であった。

従って今般、気鋭の室町時代史家呉座勇一氏の『応仁の乱』が出版されるに及び、隔世の感を深くすると共に、感慨無量を禁じ得ないと告白しても御諒察(ごりょうさつ)下されるだろう。応仁の乱の研究が容易でなかったのは、この戦乱の原因と背景が複雑で一般書として啓蒙することが単純でなかったことがまず挙げられる。歴史家が敬遠するのみならず、小説家、時代劇作家の方々からも遠ざけられていたことが、何よりもその困難さを示すといってよかろう。

今回、呉座氏の著で目に付くのは、いきなり「畿内の火薬庫、大和」として、興福寺・春日大社が守護権をもつ大和国の衆徒・国民(僧兵と氏子)の闘争を巻頭に据えて論を展開していることである。偶然に前述書の永島福太郎氏も、中世大和国史の専門家であった。この乱の根本原因の1つが、守護大名畠山氏の分裂と衆徒・国民の争乱にあることを象徴的に暗示していると思われる。

また近年の諸研究の特色として、根本史料である公卿や寺社の日記がよく読み込まれ、応仁の乱直前に起こった“文正の政変”(政所執事の伊勢貞親と僧録司の季瓊(きけい)真蘂(しんずい)が失脚したクーデター)が詳密に理解されてきたことも見逃せないだろう。この点で、家永遵嗣氏らの精力的な研究が存分に利用されていて、読み応えがある。

かつて、当時の権力者である日野富子をヒロインとしたNHKの大河ドラマに携わった者として、不人気のテーマを書き上げた著者の筆力には敬服する。また本書の売れ行きが好調との情報にも接し、大変嬉(うれ)しく思う者である。

(帝京大学特任教授 今谷 明)

[日本経済新聞朝刊2016年11月27日付]

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

著者 : 呉座 勇一
出版 : 中央公論新社
価格 : 972円 (税込み)

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