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「鬼平」の魅力、アニメでも 若い層にアピール

2016/11/29 日本経済新聞 夕刊

シリーズ最終作「鬼平犯科帳 THE FINAL」が来月放送される(C)フジテレビ

28年にわたり愛されてきたテレビ時代劇「鬼平犯科帳」が幕を下ろす。一方で来年からのアニメ化が決定。池波正太郎が小説にしてから約半世紀。今も衰えぬ作品の魅力に迫った。

「ああ、終わったんだなという気持ち。長年見ていただいて感謝しかない」。シリーズ最後となる「鬼平犯科帳 THE FINAL」(12月2~3日、フジテレビ系、午後9時~)の収録を終え、主人公の鬼平こと長谷川平蔵を演じてきた歌舞伎俳優、中村吉右衛門はしみじみと語った。鬼平は江戸後期に実在した火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官。1969年にNETテレビ(現・テレビ朝日)で始まったテレビドラマでは、吉右衛門の実父、松本白鸚(八代目松本幸四郎)の当たり役となった。

白鸚の死から2年、40歳になった吉右衛門は池波からじかに出演依頼を受けたが「まだ小僧っ子」と断った。5年後、再び依頼を受け、ドラマの中の鬼平と同い年になったことから出演を決意。28年にわたって演じてきた鬼平について「自らの信念を貫く。憧れの人物」と吉右衛門は話す。

ドラマの放送が始まった89年はトレンディードラマの全盛期。時代劇の影は薄かった。企画プロデュースを担った能村庸一氏は「失敗したらもう時代劇は作れない」と思った。それが長寿番組に育ち、「質がよければ、時代劇はまだまだ視聴者に歓迎されることを教えてくれた」(能村氏)。

■人情味たっぷり

人気を支えたのは鬼平の人物像だ。厳しく盗賊を取り締まりつつも、事情によっては情けもかける。「勧善懲悪では表現しきれない人情味、人間くささが吉右衛門という役者を得て、より魅力的になった」と能村氏は分析する。

CSの時代劇専門チャンネルが制作・放送してきた「鬼平外伝」も「四度目の女房」(12月10日午後7時~)で幕を下ろす。池波の他の短編などを原作とし、盗賊を主役に鬼平の世界を描いてきた。これまでに、本編と同じ松竹撮影所のスタッフと5作を制作した。

「鬼平外伝」は同チャンネル初のオリジナル作品でもあった。2011年、地上波から時代劇の放送枠が次々消え、同チャンネルを運営する日本映画放送の杉田成道社長は危機感を覚えた。「鬼平の世界観は、やわでなく信頼感もある。独自制作に乗り出すなら、これしかないと思った」と振り返る。

外伝の制作で、改めて作品の深みにも気付いた。「盗賊にも苦悩があり鬼平に負けない魅力がある。敵役の物語が成立するのも鬼平ならでは」(杉田社長)。現在ではBSやCSなどの衛星放送が独自に時代劇ドラマの制作に乗り出しており、その土台を築いた立役者が鬼平ともいえる。

同シリーズはこれまでに映画や舞台にもなっているが、来年1月には初めてアニメ化(テレビ東京ほかで放送)される。プロデューサーを務める丸山正雄スタジオM2代表は「念願だった企画。アニメならではの、鬼平の違う一面を見せたい」と語る。

■現代風の雰囲気

来年1月からアニメが放送される。(C)オフィス池波/文藝春秋/「TVシリーズ鬼平」製作委員会

ただ、「原作の世界が持つ、情感や柔らかさをどう表現するか」(丸山氏)が難しい。実写ドラマでは役者が自然と演じてみせていた所作も、アニメとなると、アニメーターが綿密に考え、こと細かに描き込まなくてはならない。時代考証のリサーチも必要で、通常のアニメに比べ2、3倍の手間がかかるという。

原作の鬼平は45歳だが、アニメでは現代風の雰囲気を採り入れ、若々しい見た目にした。丸山氏は「原作や実写のファンはもちろん、若い世代にもかっこいいと思ってもらえる作品にしたい」と語る。

池波が文芸誌に発表した時代小説で初めて鬼平を描いてから来年で半世紀。今なお根強い支持を得ている理由について、池波正太郎記念文庫(東京・台東)の鶴松房治指導員は「池波作品には人の営み、生きざまは不変だという信念があった。だから、時代を経ても古びない」と指摘する。

火付盗賊改方という組織の問題点を丁寧に描き、鬼平と部下や盗賊との人間関係の機微もすくい上げる。こうした点が現代人の心を打ち、衰えぬ人気を誇る一因なのだろう。実写ドラマは区切りを迎えるが、鬼平の世界はこれからも続く。

(文化部 赤塚佳彦)

[日本経済新聞夕刊2016年11月28日付]

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