眉の形、時代の女心で変化 整え方悩む「眉迷子」も表情読めぬ眉なし、開国後は外国人に不評

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濃くて直線的なら気が強く見え、細めのアーチ形なら優しく見える。眉の形は女性たちの思いを秘めた時代の気分で、大きく変遷してきた。時に太く元気に。時に細くはかなげに。眉メークの裏側をのぞいてみませんか。

「まろ眉」の平安顔 内心表さず高貴に

化粧がテーマの企画展をしている古代オリエント博物館(東京・豊島)を訪ねた。奈良時代の正倉院宝物「鳥毛立女屏風」のレプリカを見ると、宮廷の女性が鼻の付け根から太い弧を描く半月型の眉をしている。化粧法や化粧品は仏教などと一緒に中国から伝わった。情報が入る高貴な女性たちが海の向こうの流行として眉メークを取り入れた。

日本独自の化粧様式は平安時代に花開く。眉毛をすべて抜き、丸っこい「まろ眉」を描く平安顔の化粧はどうしてできたのか。ポーラ文化研究所研究員の富沢洋子さんに聞くと「眉は表情をつくり、内心が表れるもの。眉をあまり動かない人工のものにすれば、穏やかな心を持つ高貴な女性だと見られるためだと思います」と答えが返ってきた。

眉をなくすメーク法は江戸時代に多くの人に広まった。初期には武家女性の儀礼として定着。8、9歳頃の「半元服」でお歯黒、15歳前後の「本元服」で眉をそる。中期以降は庶民に波及し、結婚したらお歯黒、出産したら眉をそるとなった。

江戸後期出版のベストセラー「都風俗化粧伝」を見ると、26種類のイラストが並ぶ。大奥で取り入れた額の上部に描く眉や、眉をそる前の若い女性向けの三日月眉、一文字眉など、顔や髪形とのバランスを示し眉の描き方を解説する。現代の女性が眺めるヘアカタログ雑誌のよう。

ところが明治に入ると国がお歯黒、眉そり禁止令を何度か出した。開国で来日した外国人に「日本の女性は表情がわからず気持ち悪い」と不評だったため。1873年には当時の皇后陛下が眉そりをやめた。

「女性の流行の眉メークはニュースや時代の空気を反映している。写真は1人の女性に時代ごとの化粧を施したもの。別人に見えるでしょう?」。資生堂のトップヘア&メーキャップアーティスト、鈴木節子さんはそう話す。眉は顔の印象の8割を決めるといわれ、社会世相の影響が出やすい。好景気で人々の気分が上昇基調だと、眉は太く濃く力強くなる。景気が停滞すると気分は落ち込み、薄い細眉になるという。

大戦後の50年代 元気で太め角型眉

1920年代の流行の眉は弱々しくはかない印象の細い下がり眉。関東大震災後に世情は不安定な気分だった。30年代=写真(1)にはアーチ形の曲線を描くつり上げ眉が台頭する。女優の高峰秀子さんらが手本だ。洋装の定着で女性が活発になり、洋服に合う眉の形を探り始めた。

世界大戦後の50年代は貧しいが復興への活気が生まれ、元気で太めな角型眉が中心になる。逆に高度成長が止まった70年代は細く、薄い。急速な経済成長の反動で生じた公害や石油ショックの不安が、眉メークにも表れている。

バブルの前後の変化はめまぐるしい。80年代=写真(2)は太くて濃い直線的な眉が流行した。男女雇用機会均等法の施行もあり、キャリアウーマンが誕生した時代だ。バブル絶頂期=写真(3)の眉は濃くて強いもののそれまでより少し細くなり、女っぽい曲線が入る。ご飯をおごる男性、メッシーを尻目に「女を武器にしたほうが得をする」という意識が強かった。

90年代=写真(4)は角ばった細眉だ。不況に突入し大人がしょぼくれる一方で、細眉のギャル文化が席巻した。2000年代は細すぎた眉の調整期だ。格差問題が浮上。女性は婚活に励み、モテるために盛る髪形やまつ毛などに意識が集中した。11年の東日本大震災後=写真(5)はナチュラル眉が主流になった。突然の悲劇に襲われ、流行は必要かと多くの人が見つめ直した。最近は景気の緩やかな回復を映し、バブル期に似た太眉が流行し始めている。

流行がころころ変わる中で、どんな眉をしたらいいのかという「眉迷子」が増えている。相談に乗る専門サロンが活況と聞き、足を運んだ。全国25店を構えるアナスタシア(クレディアワールドワイド、大阪市)は顔の骨格や筋肉の付き方にあった眉を提案する。「お客様は左右の高さが違うのでそろえましょう」

専用ワックスを塗った後、テープを貼ってはがす。ちょっと痛がゆいが、眉毛が毛根から抜けた。やや太めの形に整え、最後に専用ジェルで毛流を整えて、自信がもてる眉ができあがった。

記者のつぶやき

■江戸の美容本には 今に通じるヒント
「都風俗化粧伝」は今に通じるヒントが満載だ。例えば、しまりのない顔をすっきりと見せるには目の上に少し紅をさす、丸顔なら眉を短くすると顔を長く見せられる、下ぶくれなら眉は太くして上の方へ視線を集めるなど。「江戸時代はナチュラルメークだった」と富沢さん。現代の美容雑誌が高度すぎる私には、基本をこちらで学び直したらいいかも。
(畑中麻里)

[日経プラスワン2016年11月26日付]

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