おならも死生観も題材に シュールな笑い噴出の絵本
洗練された画風に、シュールな笑い。大人もとりこにする現代風の絵本が話題を呼んでいる。定番の名作絵本とはひと味違い、交流サイト(SNS)の口コミで評判も広がっている。
亡くなったおじいちゃんのベッドの下からノートが出てきた。中には死後の計画がずらり。「こんなかみさまにいてほしい」と題したページには「『じゅみょうってきまってるの?』とか、しりたかったことをおしえてくれる」など9の願いが並ぶ。空を飛び、神様と笑顔で語り合うおじいちゃんは楽しそうだ――。
大人もニヤッと
気鋭の絵本作家、ヨシタケシンスケが4月に出した「このあと どうしちゃおう」(ブロンズ新社)は死と向き合う子どもを描く。テーマは重いが、とぼけたイラストとコメントで笑いを誘う。「27歳で母を亡くした時、死について語り合う難しさを実感した。どんなお墓がいいかなど、大切な人とふざけながら話すきっかけを作りたかった」。たどり着いたのが楽しい死後の世界を空想する話だった。
大学院修了後、イラストレーターとして活動し3年前に絵本作家デビュー。テーマに沿ったコメント付きの絵を並べるのが特徴だ。「大喜利みたいなもの、大人もニヤッとする『あるあるネタ』を描く」。昨年刊行の「もう ぬげない」(同)は「爆笑」「ハマる」とツイッターで人気が広がり発行部数26万部を突破。「このあと どうしちゃおう」も18万部を超す。
「"おならっぽさ"を表現するのが難しかった」と笑うのは、夫婦で絵本を手がけるtupera tupera(ツペラ ツペラ)の中川敦子。5月刊行の「おならしりとり」(白泉社)は「ら」で始まる言葉でおならを表現。発行10万部のヒット作「うんこしりとり」の第2弾だ。
夫の亀山達矢が中学時代に考案した遊びから着想を得た。色や形がリアルになりすぎないよう工夫。切り絵で作画しており、モノトーンを基調としたしゃれた雰囲気だ。
しりとりを描く応募用紙も付けた。「遊びの提案。本を閉じてからがスタート」と亀山。2作で800超の応募作は出版社のフェイスブックで紹介され、閲覧者の反響も大きいという。2人が開く子ども向けワークショップも人気で、SNSで感想が広がったことも知名度向上につながった。
高畠那生は、アクリルを使った鮮やかな色彩と大胆な構図で人気だ。8月刊行の「みんなにゴリラ」(ポプラ社)は右ページが一部くりぬかれ、めくると左ページの人物がゴリラに変身。「おかたづけしなさーい」と話す母親は腕を振り上げるゴリラに。「頭の中の悪ふざけを作品にした『いたずら絵本』」と高畠は話す。
東京造形大卒業後、絵本作家に。雨の日にカエルが散歩を楽しむ「カエルのおでかけ」(フレーベル館)などナンセンスな作風で知られる。「最初の1~2ページでドカンと笑え、読後はスカッとする。何回も読みたくなる本を作りたい」
SNS火付け役
絵本は親が子に買い与えることが多く、安心できる定番の名作が売り上げ上位を占める。ただ、最近は「SNSで大人が面白いと感じる作品の情報が拡散し、爆発的なヒットが生まれる」と絵本紹介サイトを運営する絵本ナビ(東京・新宿)の金柿秀幸社長は言う。
1970~80年代に新風を吹き込んだ長新太や五味太郎らのユーモアあふれる作品に親しんだ作家が育ち、「今はここ20年で最も中堅・若手が充実している」(金柿氏)。久しぶりに絵本を手に取ってみてはいかが。
(文化部 佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2016年11月22日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。