子ども医療費の助成どこまで 過剰な受診招く恐れも「中学生も対象」、自治体の7割

2016/11/20付
東京23区の子供の医療費助成には所得制限がない(千代田区役所)
東京23区の子供の医療費助成には所得制限がない(千代田区役所)
子供が医療機関にかかったとき、あなたの町では自己負担分を何歳まで補助されますか――。国の制度に上乗せし、窓口での支払いを軽減する自治体は多い。通院時の助成でみると、中学生以上も対象にする市区町村は2015年4月時点で全体の約7割に。子育て世代を呼び込もうと充実ぶりを競い合う。「過剰な受診を生む一因になる」との見方もあるが、当面この流れが続きそうだ。

「東京都内では小学校高学年でも通院で無料だったのに、横浜は違うんですか」。転入手続きで同市の窓口を訪れた子育て中の親が、こんな質問を口にする場面は少なくない。

窓口は上限500円

国の制度は子供の受診時の自己負担は原則、就学前が2割、小学生以上が3割。ただ自治体は「子ども医療費助成」「小児医療費助成」などを独自に設けており、住む場所によって負担が異なるのが実情だ。

横浜市は現在、通院は小学3年まで、入院は中学3年まで無料となる。ただし扶養親族が2人の場合で年間所得が616万円未満など、所得制限がある。一方、東京23区はいずれも中学3年(一部は高3)まで無料で所得制限もない。

ばらつきが目立つのは利用回数が多く、自治体財政を圧迫しやすい通院だ。「市民のニーズは大きい」。行政間のサービス格差を是正しようと、横浜市は来年4月から対象を小6まで引き上げることにした。

無料では財政に響くため、小4~6は1回の窓口負担を500円までの「ワンコイン制」に。2016年度は小児医療費助成で約91億円かかる見通しだが、今後は対象拡大で約10億円膨らむという。

持病のある子供を抱える家庭や所得の低い世帯にとって、こうした助成は大きな支えになる。

「病状が悪化しないよう、まめに通院する必要がある。1回あたりの支払いが少額であっても、積み重なれば家計には痛い」。ぜんそくが持病の息子(6)を毎月、小児科に通わせている岩手県一戸町の主婦(37)はこう話す。

転入の呼び水に

急な発作で時間外に受診することもある。同町では通院なら医療機関ごとの月間負担額は500円が上限で、通常は支払いが増える時間外でも「気にせず連れて行ける」。夫の転勤などで引っ越す際は、こうした仕組みの有無を確認するつもりだ。「通勤できる範囲内なら会社から少し離れた市町村も選択肢」と話す。

厚労省によると、通院時の助成対象を「中学3年まで」とするのは昨年4月時点で996自治体(前年同月比66増)、「高校3年まで」が271自治体(同68増)を数える。北海道南富良野町は最も長く、大学生・専門学校生が22歳となる年度末までが対象だ。人口減少を見据え、転居を呼び込む対策などとしての色彩は強まっている。

こうした助成は安易な受診を増やしてしまうとの懸念もある。厚労省の試算では、全国で高校卒業まで無料化すると、自治体の助成が全くない場合に比べて医療保険の給付費は年間8400億円増える。中学卒業まででは7100億円だ。

このため国は独自で医療費を助成する市町村に対し、国民健康保険の国庫負担を一部減らす措置をとってきた。いわばペナルティーで、13年度は全体で約115億円を減額。16年度の横浜市でみると、1億7千万円が削減される見込みだ。

ただ「少子化対策に逆行する」などとして自治体などから見直しを求める声は根強い。厚労省は15年から検討会で議論を重ね、今年3月に減額措置を早急に見直す考えを盛りこんだ報告書をまとめた。来年度に実施する予定で、年末の予算編成に向け与党や関係省庁間での調整が続く。

同省の調査では、助成に所得制限を設けていない自治体は8割を占める。6割は助成にあたって窓口負担を求めていない。低所得者への限定、子供の成長に応じた定額負担の導入……。国民医療費が年間40兆円を超すなか、こうした論点も必要になりそうだ。

◇     ◇

東京発、全国に広がる 当初は乳幼児に限定

自治体による子供の医療費助成は1990年代に東京で始まった。当初の対象は乳幼児。親の経済的な事情で病院に連れて行くのが遅れれば、重症化して命が危険にさらされかねないとの考えからだった。

その後、東京23区は2008年度までに無料化の対象を中学3年生までに拡大。周辺の自治体にも飛び火した。

収入面からみて、こうした支援が必要な世帯は減ってはいない。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の割合を示す「子供の貧困率」は12年時点で16.3%。前回調査(09年)よりも0.6ポイント悪化している。背景には母子家庭の増加などがあるとされる。

(奥田宏二、鳥越ゆかり)

[日本経済新聞朝刊2016年11月20日付]

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