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暮らしの知恵

失敗しない古民家暮らし NPO・農協が情報、賃貸も

2016/11/16付 日本経済新聞 夕刊

 古民家を改修して田舎暮らしをしたい――。「古民家再生」といえば、かつては一部の愛好家のものだったが、田舎暮らしブームで最近は幅広い層に浸透してきた。過疎化で空き古民家が増え自治体が移住支援に力を入れていることも追い風だ。物件探しのノウハウや失敗しない改修法を探った。

築100年を超える古民家をコツコツ改修しながら住む(津市美里町)

 10月下旬、会社員のAさん(26)は夫婦で津市の中心部から車で20分ほど離れた山間部の同市美里町に引っ越した。新たな住まいとなるのは築100年を超える古民家。約1000平方メートルの敷地には母屋、離れ、車庫に加えて畑があり、約950万円で購入した。

 長野県出身のAさんは、祖父母の家が古民家で「囲炉裏で『おやき』を焼いたりする暮らし方もいいな、と昔から憧れていた」という。知り合いのツテを頼って2年かけて探し歩いたが、結局、古民家を専門に扱う不動産業者のホームページで今の物件を見つけた。

 3年前まで居住者がいたので瓦屋根も手入れしてあり、畳の入れ替えなど少しの修繕でそのまま住める。トイレや風呂もなんとか使える。改修費用は約100万円。「とりあえず住んでみて、どうしても我慢できなかったら、少しずつ自分たちで改修していこう」と考えている。

 住み手が何を求め、どこまで手を加えるかによって古民家の再生方法は変わってくる。例えば風呂やトイレ、台所など水回りを現代的で快適なものに改修すると、設備の更新も含めて200万~400万円程度かかる。Aさんのように、住みながらコツコツと直す人も多い。

古民家を購入し、リフォームした個人宅(愛知県新城市)

 浜松市から愛知県の東部、新城市に移住した公務員のBさん(54)夫妻の場合は、築130年の古民家を約3千平方メートルの梅林とともに500万円ほどで購入し、約1000万円かけてリフォームした。土間のタタキは自らの手で直したが、素人では難しいところは古民家専門の地元の工務店に依頼。壁に断熱を施し、二重サッシに取り換え、水回りも新しくした。「ススで黒光りした柱や梁(はり)には重量感がある。不便もあるがそれも古民家の魅力」と満足そうだ。

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 古民家の物件探しを思い立ったら、昔と違って情報はどこにいてもインターネットで手に入るし専門雑誌もある。移住支援に熱心な自治体に問い合わせてみるのもいいだろう。ただ自治体の空き家バンクは最新情報が更新されていない場合が多い。

 「最新の情報をもっているのは地元の農協です」と言うのは、移住を支援する活動を続けているNPO法人「奥三河田舎暮らし隊」(愛知県新城市)の戸田由信理事長だ。地元で工務店を経営し、愛知県古民家再生協会代表理事も兼務する戸田さんは「この辺りの古民家の物件を抱えているのは全員が農協の組合員。住めなくなって、どうしようもないという時には必ず農協に相談するから“旬”の情報は農協に集まってくる」という。

 掘り出し物をみつけるには、地域のイベントに積極的に参加してみることだ。住民と仲良くなれば、ネットに載せない情報を教えてくれることもある。

 住みたい古民家を見つけたら、構造や老朽の具合を専門家に診断してもらうことが大切。全国古民家再生協会(東京・港)に登録する古民家鑑定士に依頼すれば、屋根や天井、床、敷居など建物の老朽の度合いを診断してくれる。費用は約10万円。購入前には建物の耐震調査もしたほうがいいだろう。体感できない建物の微振動をパソコン上で増幅して「見える化」させ、耐震強度が判断できる。

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 実際に改修する際には何に気をつけたらいいのか。NPO法人「日本民家再生協会」元代表理事で、自身も10年前に津市内の古民家を再生して移住した1級建築士の細野良三さんは「どんな暮らし方をしたいのか、細かなことでも、こだわるところをきちんと設計者や施工者に伝え、注文は優先順位をつけることが大切。総予算をはっきり伝え、現場での思いつき注文は高くつくと心得る」と指摘する。

 地域の気候風土に順応しながら、長い時間をかけて育まれてきた古民家には、暮らしや文化の知恵がたくさん詰まっている。しかし、実際は「寒い」「暗い」「不便」ということも忘れてはならない。高齢になって住めなくなることも考えれば「いきなり物件を買わずに、まずは賃貸を探したほうがいい」と細野さんはアドバイスする。

 農家の空き古民家は賃貸物件が少ないのが現状だが、栃木県矢板市や兵庫県丹波市などお試し移住の古民家を用意している地域もある。まずは試しに移り住んでみて冬の寒さなどを体験したほうが賢明かもしれない。

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■自治体の支援制度増加
 古民家再生には「現地再生」と、民家を解体して別の新たな敷地に再生する「移築再生」がある。一般社団法人移住・交流推進機構によると、改修助成など移住者の住居に関する自治体の支援制度は、今年度2189件と前年度より35%増えた。

(津支局長 岡本憲明)

[日本経済新聞夕刊2016年11月16日付]

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