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高速増殖炉「もんじゅ」=PIXTA

高速増殖炉「もんじゅ」=PIXTA

高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が議論になっているそうね。「核燃料サイクル」というのがキーワードみたいだけど、どういうものなのかな。

核燃料サイクルをテーマに、山崎真理さん(22)と菅原直美さん(39)が滝順一編集委員の話を聞いた。

核燃料サイクルって何ですか?

「原子力発電所で燃やした使用済み核燃料を再処理して、燃え残りのウランと、燃焼によってできたプルトニウムを抽出し、新しい燃料に加工して再利用する『リサイクル』のことです。再処理で作る新しい燃料はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料といいます。再利用の仕方には、普通の原発で燃やす『プルサーマル』と、高速増殖炉で燃やす方法の2通りあります」

なぜ必要なのですか。

「自然界にあるウランのうち、核燃料になる(核分裂する)ウラン235は0.7%しか存在しません。残りの99%以上は燃えない(核分裂しない)ウラン238です。原発で核燃料を燃やすとウラン235は減りますが、ウラン238の一部が燃えるプルトニウム239に変化します。このプルトニウム239を再び燃料として使うことで、ウラン資源を最大限活用するのが目的です」

「20世紀半ばに原子力利用が始まったころ、将来は原発だけでなく船や飛行機、自動車まで原子力で動くようになるという予測がありました。世界中で利用が拡大するとともにウランの供給が不足し、再利用が不可欠になって経済的にも見合うと考えられました。とくに資源がない日本ではエネルギー安全保障の観点から重要だとされました」

「しかし現実には、安全性の問題などから原子力利用は当初の予想ほど広がらず、再利用は経済的でないことがわかってきました。また、プルトニウムは核兵器への転用の懸念もあるため、日本以外の先進国は核燃料サイクル政策を断念したり、先延ばしにしたりしました。断念した国は、使用済み核燃料をそのまま地中深く埋める『直接処分』を進める計画です」

高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が議論になっていますね。

「日本は一貫して核燃料サイクルの実現をめざし、再処理工場や高速増殖炉の研究開発と建設を進めてきました。再処理工場については1989年に電力会社などが事業申請し、青森県六ケ所村で2006年には試運転にこぎつけました」

「高速増殖炉については、動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現在は日本原子力研究開発機構)が開発に取り組み、実験炉『常陽』を経て、原型炉『もんじゅ』が福井県敦賀市で94年に運転を始めましたが、95年にナトリウム漏れ事故を起こしてしまいました。これを契機に計画の見直し論が政府内や電力業界でも表面化し、原型炉の次に実証炉を民間で建設する計画は雲散霧消してしまいました」

「政府は9月、もんじゅについて廃炉を含め抜本的に見直すことを決めました。年末までに廃炉を正式に決め、もんじゅに代わる新たな高速炉の開発を検討します。もんじゅの廃炉で高速増殖炉の開発が遅れたり断念されたりすると、当面の核燃料サイクルはプルサーマルでの利用だけになります。しかし、国内のほとんどの原発が停止している現状ではプルサーマルもなかなか進みません」

今後どのような課題がありますか。

「もんじゅの廃炉を決めても、当面の維持・管理と最終的な廃炉に巨額のお金がかかり、技術開発も必要です。また、プルサーマルだけのために核燃料サイクルを続けるのは経済的に引き合いません。今後かかるコストは電気料金に跳ね返りますが、どれくらいになるのか不透明です」

「電力各社はこれまで英国とフランスに使用済み核燃料の再処理を委託し、抽出されたプルトニウムを国内外に約48トン保有しています。核兵器に転用可能なプルトニウムがこれだけ増え、再利用が進まないことに対して、米国などで懸念する声もあります」

「今となっては、もんじゅだけでなく核燃料サイクル政策自体が見込み違いだったことは否めません。時に間違いがあることは仕方ありませんが、政府は間違いを修正し戦略を作り直すことをためらい続けてきました。その不作為の責任を曖昧なままにして軌道修正することが許されるのか、疑問が残ります」

ちょっとウンチク


政策の本質問う議論なし
 日本が資源小国であることが核燃料サイクル政策の出発点になっている。化石燃料にもウランにも恵まれないのは今も変わらない。
 ただ情勢の変化はある。再生可能エネルギーの世界的な台頭は見逃せない。再エネですべてを賄うのは困難だが、有力な電源に育ちつつある。
 また東京電力・福島第1原子力発電所事故を経験し原子力への依存度を下げることが基本政策となった。核燃料サイクルが今すぐに必要だといえる状況ではない。
 他方、エネルギー資源が不足し核燃料サイクルが必要な時代が来ないとは限らない。地球温暖化抑止を目指すパリ協定の発効は化石燃料の使用を強く制約する。
 日本はサイクル関連の技術や産業に長年、投資してきた。こうした資産を生かしつつ、不確実な未来に備えた選択肢を手中にするにはどんな道筋があるのか。
 昨年11月に原子力規制委員会がもんじゅの在り方を問題視した後、政府はサイクル政策の本質を問う議論を一切していない。
(編集委員 滝順一)

今回のニッキィ


山崎 真理さん 大学4年生。卒業論文の執筆で忙しい日々を送っている。「卒論を提出したら、ゼミの同期と一緒に金沢へ旅行するのを楽しみにしています」
菅原 直美さん 駐車場管理会社勤務。透明な容器の中に苔(コケ)を寄せ植えする「苔テラリウム」にハマっている。「自分で作るのがとても楽しいですね」
[日本経済新聞夕刊2016年11月14日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は11月28日の予定です。

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