沖縄の島豆腐 歯応え抜群
豆の甘みと塩気が調和
沖縄料理で人気を集める一つと言えば、野菜などを混ぜて炒(いた)めるチャンプルー料理だろう。それに欠かせない食材が島豆腐だ。一般的な豆腐より硬くて食べ応えがあり、適度な塩気が料理の味を引き立てる。この島豆腐、温暖な沖縄の気候・風土の下で独自の発展を遂げ、島人たちの食を支えてきた。
「落としても崩れないくらい硬いのが基準です」。老舗豆腐店、永吉豆腐加工所(那覇市)の永吉史弥社長(25)は島豆腐の特徴をこう説明する。手に取ってみるとずしりと重い。島豆腐は1丁が約1キログラムあり、本土の豆腐の3倍近い。昔から沖縄の人が豆腐を大量に食べてきた証しだろう。
なぜ、島豆腐は重くて硬いのか。豆腐の製法は、粉砕した大豆に水を加え搾ってできた豆乳に、にがりなどの凝固剤を入れて固めてつくる。一般的に木綿豆腐は30分ほど重しを載せて水抜きをするが、島豆腐は2~4時間かける。その結果、大豆のうまみが凝縮された硬い島豆腐ができる。
永吉さんによれば、たんぱく質の含有率は本土の豆腐より3~5割高い。稲作に適さない沖縄では、庶民の主食は芋類だったといわれる。14世紀頃、中国から豆腐の製法が伝わり、貴重なたんぱく源として愛用されるようになった。食べ応えがあり、腹持ちのいい硬い豆腐が好まれたようだ。
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首里城近くの那覇市繁多川地区は湧き水が豊富で、昔から豆腐づくりが盛んな地域。繁多川公民館の南信乃介館長(35)によると、昭和30年ごろまでは3軒に1軒が豆腐店だった。琉球王朝時代、住民は手づくりした豆腐を王家に献上したという。地区内の小中学校では授業で児童・生徒が豆腐づくりを体験し、郷土の歴史を学んでいる。
もう1つの特徴が塩気だ。沖縄では凝固剤に海水を使い、さらに食塩も入れる。塩を加えるのは腐敗防止のためだ。味が淡泊な本土の豆腐に対し、適度に塩気がある島豆腐はそのまま食べてもおいしい。特に水抜きをせず軟らかい状態で袋に詰めた「ゆし豆腐」は、豆腐からしみ出る汁の塩気と大豆が持つ本来の甘みが調和し、絶品だ。
この塩気は料理を作る際にも効果的。那覇市の居酒屋「朝助家」の店主、松田朝一さん(46)は「豆腐から出る塩分がちょうどいい味付けになる」と話す。しかも島豆腐は硬いので炒めてもグチャグチャにならず、歯応えのある食感が残る。煮付けや味噌汁の具にも最適で、家庭料理にはなくてはならない食材だ。
流通方法も独特。通常、豆腐は冷蔵パックで売られるが、島豆腐は温かい状態でポリ袋に入れられスーパーの店頭に並ぶ。業者が出来たてを持ち込むためだ。売り場には各店の入荷時間が表示され、到着すると鐘を鳴らして客に知らせる。まるで人気のパン店が焼き上がり時間を知らせるみたいな感じだ。豆腐も出来たてが一番おいしく、それを目当てに来る客も多い。
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スーパーがない時代、業者はリヤカーの荷台に出来たての豆腐を積み、鐘を鳴らして売り歩いた。今の売り方はその名残だろう。
その原点に返るため、車による移動販売を始めた業者もある。池田食品(西原町)だ。2年前からスーパーへの納入をやめ、移動販売に切り替えた。7台の車に出来たての豆腐を積み、沖縄本島の中南部を走らせる。自らハンドルを握る社長の瑞慶覧宏至さん(32)は「軒先で出来たてが買えると好評だ。客の声も直接聞けて商品開発にも生かせる」と手応えを感じる。
実は、温かい状態で豆腐を販売するのは食品衛生法違反になる。同法の規定では雑菌の繁殖を防ぐため、豆腐は冷蔵で販売しなければならない。だが、1972年の本土復帰の際、温かい豆腐を食べる食習慣を守ろうと、業界団体が当時の厚生省などに働きかけ、特例として販売を認めてもらった経緯がある。
ただ、最近は食の多様化で豆腐の消費量は以前より半減したという。沖縄県豆腐油揚商工組合の加盟数も50年で約3分の1に減り、現在は68社。理事長の久高将勝さん(74)は「島豆腐は先人が苦労して守ってきた沖縄の食文化。その良さをもう一度、多くの人に伝えたい」と熱く語る。
沖縄でも若い人を中心に豆腐離れが進んでいるが、それでも1世帯あたりの消費は全国でも群を抜く。総務省統計局の家計調査によると、豆腐の年間支出額は県庁所在市と政令市の中で那覇市が7550円(2013~15年平均値)で首位。2位の盛岡市を600円あまり上回った。ところが数量は65丁弱で下から2番目。これは単位が丁で計算しているため。島豆腐の1丁は本土の豆腐より3倍も大きいので、実質的には200丁近い。これは1位の青森市のほぼ2倍。やはり沖縄は豆腐王国といえるだろう。
(高橋敬治)
[日本経済新聞夕刊2016年11月8日付]
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